(466)『Cabin Porn 小屋に暮らす、自然と生きる』を読む

小さな家の小さな本棚

今回はザック・クライン編『Cabin Porn 小屋に暮らす、自然と生きる』(尾原美保訳、2017年、グラフィック社)をご紹介します。

同じ編者による続編『Cabin Porn Inside キャビン・ポーン・インサイド 小屋のなかへ』(渡部未華子訳、2019年、グラフィック社)は3年前にすでにご紹介しました。

『Cabin Porn』はこの前編にあたる書籍で、続編と同じく魅力的な小屋の実例が多数紹介されています。

『Cabin Porn』表紙
※表紙より引用しました

冒頭を飾るのが編者のザック・クライン(Zack Klein)氏自身が仲間と一緒に築いた小屋。シンプルな片流れの屋根が印象的な建物です。

今回、じっくり読み直したところ、クライン氏は動画共有サイトの「vimeo」の創立メンバーであり、著名な起業家であることを初めて知りました。氏はその仕事を「都会でのオンライン・コミュニティ作り」(3ページ)と表現しています。その「vimeo」を売却したのち「今度はオフラインの集落を作ろう」(3ページ)と考え、人里離れた土地を探して小屋を建てたのだそうです。アクティブでエネルギッシュ。

『Cabin Porn』の帯
※表紙より引用しました

なるほど、帯に「オンラインからオフラインへ」と書いてあったのはそういうわけだったのでした。この種の本って写真が充実しているので活字を読まずにパラパラとめくっているだけで満足してしまいがちなのですが、あらためてじっくりテキストを読んでみると、これがなかなか興味深い内容でした。

ビーバーブルックより引用
beaverbrookより引用しました

氏の言う「オフラインの集落」とは「具体的に言うと、たくさんの友人と屋外で過ごしながら、各自が本職にとらわれず、新しいスキルを共に習得しながら、お互いに信頼を深めていけるような場所」(3ページ)のことなんだとか。

それを実現するために白羽の矢が立てられたのが、ニューヨーク州北部のバリービルにあるビーバーブルック(BEAVER BROOK)という土地でした。

『Cabin Porn』裏表紙
※裏表紙より引用しました

夏にはホタルが飛び交い、冬には凍った小川の上にリスの足跡やスノーシューズの跡が無数に見られる」(6ページ)という大自然の中に、クライン氏と仲間たちは次々と小屋やサウナなどを建てていき、コミュニティを作っていきます。 その模様についてはビーバーブルックのオフィシャルサイトで詳しく見ることができます。

beaverbrook

小屋好きならたまらない写真が満載で必見です。

このビーバーブルックでの経験を活かし、クライン氏が立ち上げたウェブページが「Cabin Porn」なのです。

Cabin Porn

このサイトに集積した膨大な小屋の中から200例余りを厳選して掲載したのが書籍版の「Cabin Porn」。写真のほとんどは外観一枚だけを掲載するだけの「チラ見せ」にとどまっていますが、ビーバーブルックを含む10軒については多数の写真と詳しいストーリーがつづられています。

印象深いのが帯にも掲載されているアイダホ州サンドポイントにあるツリーハウスです。

『Cabin Porn』帯
※裏表紙の帯より引用しました

帯の小さい写真を拡大したので、画像が粗いのはご勘弁いただくとして、なぜ地上9メートルのツリーハウスに自転車が?という疑問が湧くはずです。

これ、実は自分の脚でこいで上がるエレベーターなのです。地元メディアに写真が掲載されていたのを引用しましょう。

サンドポイントマガジンの引用
Sandpoint magazineの記事から引用しました

なんともユニークな絵面ですが、このツリーハウスを建てたイーサン・シュルスラー(Eathan Schlussler)氏は「ツリーハウスに関する常識はあえて無視」(163ページ)し、独学ですべての作業をおこなったというから驚きです。壁を塗るにも専門家の意見を聞かずにはおこなえないマニュアル人間の自分にはとても想像できないレベルの超絶DIYですが、こういう自由な人間がゴロゴロいるのがアメリカの懐の深さなのかもしれません。

『Cabin Porn』帯

あらためて先ほどの粗い画像を見直してみると、本丸のツリーハウスから伸びる橋が新たに付け加えられているのがわかります。この橋、隣の木につながっているのですが、地上9メートルなのに手すりも何もない!本書にはポケットに手を突っ込んで何事もないようにここを渡るシュルスラー氏の写真も掲載されていて(163ページ)、なんといいますか、高所恐怖症の僕にはすべてが理解を超えた感じでありました。

cabinpornのサイトより引用
Cabin Pornより引用しました

小屋といえば、何かと話題にのぼりがちな「オフグリッド」の事例も掲載されています。

『Cabin Porn』帯
※裏表紙の帯より引用しました

メイン州のディアーアイルにあるこの小屋(というには大きな家)を建てたのはデニス・カーター氏(Dennis Carter)。

氏は「持続可能な自作農業と旅行者数人が宿泊できるような施設」(92ページ)として、このホステルを建てたんだそうです。

「オフグリッド」とは、電気・ガス・水道などのインフラ(grid)につながらず(off)、エネルギーを自給自足することを意味します。以前ご紹介した中村好文氏の「LEMM HUT」も「オフグリッド」でした。

カーター氏の建てた「ディアーアイルホステル」は「オフグリッド」でありながら宿泊施設でもあるのがすごいですね。たとえば電気はソーラーパネルで発電しているそうですが、太陽光だけで二階建ての家に煌々と灯りが灯っているのは驚きです。

トリップアドバイザーにたくさんの写真が掲載されていますのでご興味ある方はどうぞ。

Deer Isle Hostel

「オフグリッド」の家を自分で建てるのはハードル高すぎですが、お客としてなら体験してみたいかも。

『Cabin Porn』帯
※裏表紙の帯より引用しました

こんな感じに魅力的な小屋が満載の非常に楽しい書籍です。先ほども書きましたが、大半は外観の写真一枚のみの掲載なのですが、こんなご時世ですから、気になった小屋があれば写真のクレジットをヒントにネットで検索すると詳しい情報が簡単に見つかったりします。

『Cabin Porn』帯
※裏表紙の帯より引用しました

たとえば、帯にも掲載されているカリフォルニア州トパンガの「ハンドメイドの家」(214ページ)は、小屋をデザインしたメイスン・セント・ピーター氏(Mason St. Peter)のホームページ(masonstpeter.com)で詳しく知ることができます。

TOPANGA CABIN, LOS ANGELES

素朴ながら気持ちのいい小屋で、アトリエとして使われているようです。

masonstpeter.comより引用
masonstpeter.comより引用しました

ラグやテーブルまわりなど、いちいち小物がおしゃれ。ぜひごらんになってみてください。

『Cabin Porn』書影

この本を入口に無限に広がる小屋の世界をさまよってみてはいかがですか。

アサクラ

大家業。世田谷のマンションと東京西部の山奥にある小屋を管理&経営しています。最近は熱海に購入したマンションの一室をDIYで修繕中。ESSE online(エ...

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