(59)【小さな家の小さな本棚①】『ニッポンの新しい小屋暮らし』

家具や雑貨

リノベーションのリポートもまだまだ途上ではありますが、今日は完成後に置いた本棚と本の話をいたします。

本棚を置いた様子

玄関を開けて正面の壁に置いた古い本棚は祖父が遺したもの。

もともと書庫だったこの部屋に詰め込まれていたガラクタの99%は容赦なく処分しましたが、どこか片隅にくらいかつての記憶の欠片が残っていてもいいじゃないかと思うくらいの情緒は僕にもありまして、この本棚だけは残すことにしました。

本棚の装飾

植物をかたどった模様がきれいです。

この本棚には主に僕の愛読書を置いているのですが、一角には「小屋」(とか「小さな家」とか「タイニーハウス」とか「別荘」とか)を取り上げた書籍もそろえてあります。

本棚の一角

大半がこの10年間に出版されたものであり、「小屋」をめぐるムーブメントが徐々に存在感を増してきたのがわかります。

そんななかで「小屋」という言葉も多様な意味を帯びてきました。

『ニッポンの新しい小屋暮らし』書影

今回ご紹介する書籍『ニッポンの新しい小屋暮らし』(yadokari、光文社、2017年)は、多様化した「小屋」を一望するには最適の書と言えます。

ごぞんじない方にご説明すると、この本を著したyadokari(ヤドカリ)は「小さな暮らし」を軸に、小屋の販売やイベントやワークショップの開催などをおこなっている会社。

この書籍の冒頭に取り上げられている「INSPIRATION」と名付けられた「小屋」もyadokariが販売する商品でもあり、それを考えると自社製品を紹介する手前味噌感がないわけではありません。

『ニッポンの新しい小屋暮らし』帯

秘密基地」やら「セルフビルド」やら「リノベ」やら、「小屋好き」をウズウズさせるようなワードが踊る帯文句どおり、ラインナップの多様さはこの本の醍醐味。

決して「うちの会社ってスゴイだろ」的な自社宣伝本ではないので、安心してお薦めします。

具体的に中身を紹介していきましょう。

トップバッターは表紙にもなっている「仲間でシェアする“秘密基地”小屋」です。

表紙アップ

仲の良い男子(20代?)4人で「INSPIRATION」を購入し、週末になると集まってバーベキューなどに興じているそうで、まことに楽しそうな雰囲気が伝わってきます。

前面に大きく取られた開口部は近年流行りのキャンプやアウトドアにもピッタリで「小屋界」きってのおしゃれフェイスと言えそうです。

税別本体価格で300万~450万ほどなので、土地の準備やもろもろ出費を考えると気軽には買えませんが、ふつうの戸建てよりはぐっとリーズナブル。

気になる方は、以下のサイトでチェックしてみてください。

INSPIRATION by YADOKARI

INSPIRATION販売ページ

……と思ったら、2019年6月現在、販売を中止しているようで残念です。

続いて紹介されるのは「都心にたたずむデザイナーズ小屋」。

白金台という好立地ながら35平米(!)の超狭小地に建てられた一戸建てです。

建築家に依頼したとあって、狭いながらも細部まで知恵とお金をかけたことが見て取れる「ハイエンド系小屋」

「おれ、最近、小屋建ててさ」なんて友人に言われて遊びに行って、これを見せられたらさすがに驚くことでしょう。

ちなみにこのおウチ、『あえて選んだせまい家』(加藤郷子、ワニブックス、2016年)でも紹介されており(pp144-165)、「小屋」というよりは最近の狭小住宅の流れに位置付けるのがオーソドックスな見方かもしれません。

3例目の「ホムセン素材の“セルフビルド”小屋」になり、ようやく「小屋らしい小屋」が登場します。

仕事をリタイヤした70歳の男性がホームセンターで調達できる材料を用いて54万円で作り上げた小屋は、先ほどの2例にくらべれば素朴なたたずまいですが、手作りにしては立派すぎる内装です。

柱をスカイブルー、壁をホワイトで仕上げる70歳ってステキだなと思ってたら大学のデザイン系の学部で先生をしていた方だそうで。

どうりで完成度が高いわけだ。

この本では他にも、「61歳のシンプルライフ小屋」や「自宅の庭につくった「離れ」小屋」などが紹介されており、セルフビルド系の「小屋」のバリエーションをいくつか見くらべることができます。

大自然にポツンと建つ家がお好みの方には「自然に溶け込むオフグリッド小屋」がおすすめです。

「オフグリッド」とは、電気・ガス・水道といったライフラインをひかず、すべて自前でまかなうということ。

電気は太陽光発電、水は湧き水だそうです。

家を建てた方はフィンランドのサマーコテージ文化などに影響を受け、この小屋を建てたとか。

写真を見ると、開け放った窓から臨む冬の山々は見事な絶景で、大自然のなかで過ごすことにあこがれる方にはたまらないでしょう。

この「小屋」については『小屋入門』(ムック、地球丸、2017年)でも取り上げられています。

こちらに収められた写真は温かい時期に撮影されていて、季節によってガラリと変わる山の表情が感じられます。

ご興味ある方は、ぜひ見比べてみてください。

さて、『ニッポンの新しい小屋暮らし』では、既存の「小屋」をリノベーションした例も2つ取り上げられています。

人口減少でますます空き家が増える近年、新築を建てるよりは既存の住宅を再利用するほうが、ムダがなく低コストで現実的。

子どもたちと過ごすリノベ山小屋」は、山梨の山間部にある小さな戸建てを補助金なども駆使しながらリノベーションした30平米ほどの小さな家です。

うちの山小屋の近所にもありそうな庶民的なたたずまいが好印象。

もう一軒「アートや音楽を学べる山小屋」も年間賃料1万円という実質タダ的な激安物件を活用した例で、お金をかけない「小屋暮らし」の可能性が感じられます。

最後の11例目にはトラックで移動できる「モバイル小屋」も紹介されていて、読み終えたあとには「世の中っていろんな人がいて、いろんな小屋があるなあ」と思うはず。

人によっては「こんなの小屋じゃない」と思う物件も含まれているとは思いますが、「ちっちゃい家ならぜんぶ小屋なんじゃい」というスタンスで「小屋」の定義をグイグイ広げていこうというyadokariの確信犯的なやり方は、個人的には嫌いじゃありません。

「小屋とはかくあるべし」という定義で囲い込んで貧しいコンテンツをいじくるよりも、ド都心にあろうが野原にあろうが山奥にあろうが「小さな家ならみんな小屋」くらいのアバウトな感じでくくってしまったほうが、文化的には広がりが出て楽しくなるもの。

うちの山小屋の外観

かくいう我が山小屋も「小屋」なのか「山荘」なのか「別荘」なのか「ウィークエンドハウス」なのかわからない得体の知れない物件ではありますが、まあ、開き直ってその全部だと言い切ってしまうこともできそうです、ハイ。

最後にこの本の版型について。

判型

ごらんのとおり、この本、かなり小さめの特殊な判型。

気楽にどこにでもポンと置けて読みやすいのが心地いいのです。

思えばコンパクトな暮らしを提唱するyadokariのような会社が出す本が置き場に困る大型書籍であっていいはずがなく、カバンに突っ込んでどこにでも持ち運べるような手軽なかたちを選んだのは必然なのかもしれません。

『ニッポンの新しい小屋暮らし』書影(帯付き)

なんとなく「小屋」が気になる方、手に取ってはいかがでしょうか。

アサクラ

大家業。世田谷のマンションと東京西部の山奥にある小屋を管理&経営しています。最近は熱海に購入したマンションの一室をDIYで修繕中。ESSE online(エ...

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