(351)【日刊Sumai再録】「ハレットハウス腰越」宿泊体験記
前回の自己紹介でも触れましたが、今年、熱海に古いリゾートマンション(の一室)を取得しました。その話に入る前に、枕として「日刊Sumai」の連載の再録記事をお届けします。
タイトルは「試住ができる「ハレットハウス腰越」に泊まってみました」。2019年1月21日公開の原稿です。
腰越をごぞんじない方も多いとは思いますが、おなじみ江の島のお隣にある静かな港町です。その路地にある古い民家をリフォームしたのが「ハレットハウス腰越」です。
「古い民家」というと、つい築百年の重厚な日本家屋を想像しがちですが、「ハレットハウス腰越」のベースとなっている建物は「昭和」を感じさせる「ふつうの民家」。どこにでもある昭和の家を(あまり大がかりな工事をせずに)いかにスマートにリノベーションするか――当時は山小屋の離れのリノベーションを手がけている最中だったこともあり、とても勉強になりました。
では、どうぞ。
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【試住ができる「ハレットハウス腰越」に泊まってみました】
先日、鎌倉の腰越にある宿泊施設「haletto house 001 KOSHIGOE」に泊まってきました。
宿泊施設といってもホテルではありません。
「ハレットハウス腰越」は株式会社CHINTAIが運営する「暮らしを試す」をコンセプトにした宿泊施設。
東京都民の移住先としても根強い人気を誇る鎌倉で、「試住」を提案しようという試みだそうです。
■ 昭和50年に建てられた木造家屋をリノベーション
鎌倉はご存じでも、腰越は知らないという方もいるかもしれません。
鎌倉駅から江ノ電でおよそ20分、江ノ島駅のひとつ手前にある小さな駅です。
駅から歩いてすぐの路地に「ハレットハウス腰越」はあります。
看板がなければ通り過ぎてしまうような、普通の民家の佇まい。
「ハレットハウス腰越」は、昭和50年に建てられた木造家屋をリノベーションした「一棟貸し」の宿泊施設なのです。
ホテルのようなフロントも受け付けもなく、キーボックスでカギを取り出します。
宿泊名簿の受け渡しに現地スタッフと対面する手続きはありますが、民泊に近いスタイルですね。
ガラガラとドアを開けると、思わず「ただいま」と言いたくなるような懐かしい雰囲気。
貸し切りですから、ここから先は自分の家のように気の向くまま過ごせます。
旅行に来たはずなのに、なんだか初めての感覚。
この感覚を味わいに、僕は「ハレットハウス腰越」を訪れたのです。
私事で恐縮ですが、以前も書いたとおり東京のはずれの山奥にある古い山小屋をリノベーションし、入居者の方々に使ってもらうための準備をしています。
ホテルのような折り目正しい宿泊施設というよりは、日々の生活の延長にあるような「セカンドハウス」として使ってもらいたいと思っています。その参考にしようと「ハレットハウス腰越」を訪れたのでした。
さて、築40年越えというこの民家、どんなふうにリノベーションされているのでしょうか?
■ 家の中心は「リノベーションのきいたリビング」
メインとなるのは、やはりリビング(10.5畳)でしょう。
古い日本家屋の雰囲気を残しつつ、絶妙にリノベーションされています。
床には琉球畳を敷き、その上にチェアとテーブルを配することで、古い民家に漂いがちな古臭さを払拭しています。
モケットグリーンの生地でおなじみ、カリモクのKチェアシリーズです。昭和レトロを意識したであろう良いチョイス。
チェアの傍らには壁付けの小さな本棚。
木材のブロックをブックエンドにするなどアイデアを感じられます。
おそらく砂壁だったであろう壁は珪藻土が塗られ、明るい色合いに。
1階にはリビングのほかに水回りがあります。
キッチンは普通の料理には困らない標準的なグレードで、食器や調理器具も一通り揃っています。
最近人気のバルミューダの電気ケトルやトースターもうれしいですね。
キッチンの向かいには洗濯機。長期滞在や、海で衣類が汚れてしまった場合に重宝しそうです。
温水洗浄便座つきトイレ。やや狭めですが機能的には問題なし。
お風呂は黒のタイルが印象的。古いお風呂によくある深めの浴槽です。
床はひんやりしない材質に敷き変えられています。
ちなみに、「ハレットハウス腰越」には洗面がありません。
歯磨きや手洗いなどはキッチンで済ませることになります。
宿泊場所に充実した洗面設備を求める向きにはマイナス点になりそう。
■ 静かな空間で、ベッドでも布団でもゆっくり眠れます
玄関前の階段を上って2階へ上がると、部屋が二つ。
こちらは六畳の部屋。ベッドと書き物机が備えつけられ、洋室のような構成です。
ベッドのサイズはセミダブルです。
朝になると障子越しに柔らかい光が入ってくるので自然に目が覚めます。寝心地も問題なしでした。
机はちょっとした書き物やノートパソコンでの作業なら十分な広さ。
とても過ごしやすく整えられた部屋ですが、照明スイッチの位置が気になりました。
ドアを開けると、スイッチがバッチリ隠れてしまうのです。
初めて部屋に入ったのは夜だったので、なかなかスイッチが見つからずオタオタしました。
古い民家のリノベーションは、こういうところが難しいですね……。
こちらは7.5畳の和室。押入れには布団がありますので「ベッドよりも布団」派の方はこちらにどうぞ。
■ 実用面のメリット&デメリットのまとめ
1階のリビングと2階の2部屋をうまく使い分けると、さまざまな人数やメンバー構成に対応できるのは大きな魅力です。
5名(子どもはのぞく)までの宿泊が可能なので、家族や友人グループで泊まるのが鉄板。
カップル2組で泊まった場合も、リビングで一緒に過ごしつつ寝室は分けられるのでありがたいですね。2人での宿泊だと広すぎて空間を持て余す感はありますが、1人が2階で寝ているあいだ、もう1人がリビングで読書をする、といった使い方ができるのでやはり便利です。
僕は妻と宿泊しましたが、夜型の妻が寝坊しているあいだ、早起きした僕は1階で気兼ねなく過ごすことができました。
自分たち以外にはだれもいないので、他人の気配を感じずにのんびり過ごせます。
が、裏を返せば「ちょっとした問題にはすぐに対応してもらえないというデメリット」もあります。僕たちが宿泊した際、手違いで本来用意されているはずの歯ブラシがなく、仕方なくコンビニまで買いにいきました。
ホテルならフロントで一声かけるだけで済むことなので、隅々まで行き届いたサービスが宿泊施設に必須と考える方には向いていないかもしれません。
また、宿泊する季節にも注意したいところ。
ホテルなどとちがい、ふつうの民家なので「隅々まで冷暖房が効いて快適」ということはありえません。
僕が宿泊したのは真冬の寒い日だったので、室内の暖房をマックスにしてもリビングは暖まりきらない印象でした。
リビングの一角にはコタツが用意されているので、真冬はチェアよりもこちらが団らんの中心になりそうです。
さらに、廊下やキッチン、トイレやお風呂場はかなりの寒さ(ということは、真夏にはそうとう暑くなるはず)。
僕自身は築古の木造日本家屋に住んでいたこともあって想定の範囲内でしたが、気密性の高い新築住宅に住み慣れた方には寒さが気になるかもしれません。
■ インテリアに漂う「昭和」の風情も魅力
「ハレットハウス腰越」には築古の木造日本家屋ならではの魅力がたくさんあります。
昔ながらのすりガラスや、
床の間なども残されており、
きちんとディスプレイされていて気持ちいいです。
なんというか、いい意味で「昭和っぽい」雰囲気を活かしています。
世間的にヴィンテージ的な価値が確定したいわゆる「古民家」ではなく、ともすれば「昭和臭い」と言われてしまいかねないありふれた「民家」です。
そこに一工夫加えて、きちんと清掃の行き届いた状態で提供する。
こういう宿って、ありそうでなかったんじゃないでしょうか。
「鎌倉に住んでみたい」という方はもちろん、「昭和の日本家屋に住みたい(もしくは買いたい)」という人が民家体験に泊まってみるのにも最適だと思いますね。
しかし、「ハレットハウス腰越」の魅力は建物だけでは語れません。
物件は、やはり立地が命。
「暮らしを試す」となったら、家を取り巻く環境も欠かせない要素です。
次回は、この「ハレットハウス腰越」に「試住」したら、どんな楽しみ方ができるか、ご紹介します。
■住所神奈川県鎌倉市腰越2-12-9
(江ノ電「腰越駅」から徒歩1分、江ノ電「江ノ島駅」から徒歩10分、湘南モノレール「湘南江ノ島駅」から徒歩10分)
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原稿公開から4年が経った現在も「ハレットハウス腰越」は健在。Airbnb(エアービーアンドビー)などで予約して宿泊できます。宿泊施設として広めなので、ふた家族で借りて鎌倉&湘南エリアを満喫するのも楽しいかもしれません。コロナ禍も落ち着いてきそうなこの夏、ぜひ訪れてみてください。
次回は後編。「ハレットハウス腰越」周辺の観光ルポをお送りします。