(444)熱海の窓辺にサファリチェアを置く
熱海の部屋の窓辺にはマットソンチェア(マルガリータ)とニーチェアを置きました。
それぞれの椅子については以前の記事でご紹介しています。
しかし、熱海の物件を購入して以来、窓辺に置く椅子として念頭にあったのは別の椅子でした。
今回は、北欧デザインの名作「サファリチェア」についてご紹介します。
■コーア・クリントの名作「サファリチェア」とは
この椅子をデザインしたのは、デンマークのデザイナー、コーア・クリントです。
サファリチェアの製造元である「カール・ハンセン&サン」のホームページで詳しいプロフィールが紹介されているのでご興味ある方はどうぞ。
僕は「デニッシュモダン」を明確に定義できるような知識は持ちあわせていませんが、ざっくりいうと北欧におけるミッドセンチュリーの黄金時代のことで、Yチェアーで知られるウェグナーなどがその代表人物といえるでしょう。
「デニッシュモダンの父」と呼ばれるくらいですからクリントはそのひとつ前のジェネレーションに属するデザイナーで、黄金時代の礎を築いた人物。そのクリントが1933年にデザインした代表作(のひとつ)がサファリチェアです。
以前もご紹介した島崎信氏の「美しい椅子3」(枻文庫、2004年)を参考にしながら、この椅子が生み出された背景をまとめてみましょう。
島崎氏によると、クリントの功績のひとつは「伝統的な様式家具を研究して、近代デザインにリ・デザインした(94ページ)」ことだそうです。サファリチェアもその流れの中に位置づけられる作品で「アフリカやインド統治時代にイギリス軍でつくられたコロニアルチェア(99ページ)」を再構築したもの。
「携帯に便利なように、解体、組立てが簡単にできた(99ページ)」のがコロニアルチェアの特徴で、それを踏襲したサファリチェアも各パーツが固定されておらず、分解して持ち運ぶことができる仕組みになっています。
特徴的なデザインでありながら変な主張を感じさせないのは、コロニアルチェアならではの機能美が受け継がれているからなのかもしれませんね。
写真は僕が自由が丘にある北欧の椅子の専門店「サボファニチャー」で取材(&購入)した際に撮影しました。
店主の小松さんのインタビューでもサファリチェアについて触れているのでよかったらあわせてお読みください。
■サファリチェアの組み立てを見学する
さて、僕は展示品を購入して持ち帰ったので、分解と組み立ての経験はありません。
自宅ではこんな感じに窓際に置いていたのですが、六畳しかないリビングの片隅ではゆったりと座ることもできず、宝の持ち腐れだと感じていたので熱海の広い窓辺に持って行こうと考えました。
その際、このままクルマに積むか、それとも分解にチャレンジするべきか、迷いました。小松さんに相談したところ、「ちょうど新しいサファリチェアを展示するところですから、よかったら組み立てを見に来ませんか」とお誘いいただき、見学にうかがったのが今年の一月のことでした。
組み立て前のパッケージはこんな感じ。椅子とは思えないほどコンパクトです。以前は組み立てた状態でお店に納品されていたらしいのですが、折からの燃料費高騰のあおりで輸送費を削減するために分解した状態で配送されるようになったんだとか。
開封したところ。これらの棒状のパーツ(脚や貫)をキャンバス(座面と背もたれ)でくるんで革ベルトで留めれば簡単に持ち運べるというわけ。
固定はしないので、ドライバーなどの工具は必要ありませんが、
脚に空いた穴に貫を差し込むには少々のコツとそれなりの力が必要になる印象を受けました。
小松さんは家具職人の修行経験もある方ですから着実に組み立てていましたが、自分のような素人がムリして壊してしまったらと思うとたじろいでしまいます。結局、分解しての搬入は断念しました。
このサファリチェアは背もたれが可動するので、座面と並行にすることでなんとかクルマに積み込むことができましたが、急ブレーキなどで傷つけはしまいかとビクビクしながらの運転でした。家具を扱い慣れていないとサファリチェアを分解してまめに持ち歩くというのは現実的ではなさそうです。
■熱海の窓辺にサファリチェアを置く
そんなこんなでようやく熱海の部屋にサファリチェアを運び込むことができました。
ムダなものがない空間に置いてみると、そのデザインの素晴らしさが際立ちます。
斜めから見ても、
横から見ても、
後ろから見ても、端正なシルエット。
革のベルトや金具など、ディテールも秀逸。
クラフトマンシップを感じます。
ちなみに、先ほど組み立て風景をご紹介したサボファニチャーの展示品は、アッシュの木材にホワイトオイル塗装を施したタイプでしたが、我が家のサファリチェアは同じアッシュ材でもアンモニアで処理をおこったスモークドアッシュ。
なので、アッシュなのに深いブラウンカラーなのです。ちなみに、現在はこの製法のサファリチェアは作られていません。当時、製造中止の知らせに背中を押されて思い切って購入したのを思い出しました。
うちの座面のクッションはノーマルなキャンバス地ですが、
サボファニチャーの展示品はレザーのクッションを組み合わせています。これはちょっとうらやましい。
さて、分解して持ち運べる椅子というと「座り心地はどうなの?」と疑問に思われるかもしれませんが、「座わって重量がかかると接合部分が締まり安定するので、座り心地も充分である(前掲、99ページ)」と島崎氏が書いているとおり、想像以上にリラックス感のある座り心地です。
座面には角度がついていないので低いテーブルと組み合わせれば簡単な食事や書き物もちゃんとできます。
先ほど書きましたが、背もたれは可動式なのでダラッと座って上を向いてもラク。意外に多様な用途に使える椅子です。
現在は、このサファリチェアと、同じく北欧デザインのマルガリータチェア(スウェーデンのブルーノ・マットソンのデザインで製造は天童木工)をならべて使っています。
ゲストが来たときにはフォールディングチェアであるニーチェアを広げ、三人でも窓辺でくつろぐことができます。
しかし、これならいっそ椅子に座って海を見ながらテーブルでお茶や軽食を楽しみたいという気持ちが募るようになってきました。
次回は、窓辺の椅子たちにうまく合うようなテーブルを検討してみます。