(570)【日刊Sumai再録】更新料は1か月の延長でも払わなきゃダメ?
今年の夏は殺人的な暑さでしたね。
ようやく涼しい日も出てきてアウトドアでも楽しもうかという気持ちになりますが、秋は春に次いで賃貸が動くハイシーズンでもあるので個人的には油断できません。
今年は例年よりも早く6月に空室が出たものの7月には次の入居が決まったこともあり、秋はなんとか穏やかに過ごせるのではと期待しているのですが、どうなるでしょうか。
さて。入居者さんや内見に来た方とお話していると「転居はやっぱり更新のタイミングで」という話をよく耳にします。でも、人生の転機がいつも更新と同じ時期に訪れてくれるとはかぎりません。
今回は「日刊Sumai」の再録記事「更新料は1か月の延長でもやっぱり払わなきゃダメ?」(2019年9月28日)をお届けします。掲載時の写真は一部削除し、若干表現に手を入れたことをお断りしておきます。
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【更新料は1か月の延長でもやっぱり払わなきゃダメ?】
賃貸物件を借りている人にとって、更新は引っ越しについて考える絶好の機会です。でも、引っ越しのタイミングがつねに更新月とピッタリ合うとは限りませんよね。もし来月が更新月なのに、再来月に引っ越さねばならない事情があるとしたらどうでしょう?
今回は、僕が所有するマンションで実際にあったケースを例に更新料について考えてみることにします。
■入居者さんから更新料について相談を受ける
それは一人暮らしの入居者さんのケース。
6月に更新の予定だったのですが、4月下旬頃に電話で退去の相談を受けました。
通常、退去に関する連絡は大家さんではなく、不動産会社にすることになっています。ですが、この入居者さんの場合は、僕に相談したいことがあるので直接電話をしてきたのでした。
要件をかいつまんでいうと「7月に退去しようと考えているのだけれど、6月に払うべき更新料を免除してもらえないだろうか」という相談でした。聞くところによると、交際している方と一緒に暮らすことになったのだけれど、2人で入居する予定の物件が7月からしか入居できないのだそうなのです。
そこに引っ越すまでの1か月だけうちのマンションに住み続けたいけれど、そのために更新料を払うのはツライということでしょう。
■原則として更新料は支払わなければならない
さて、このケース、どう考えるべきでしょうか?
まず、賃貸契約の原則からいうと、更新料はたった1か月の延長でも支払わなければなりません。更新料についてはさまざまな意見があるものの、いちおう過去の判例から妥当性が認められたお金です。
賃貸契約書には必ず更新料に関する一文が掲載されており、これに同意してハンコを押して賃貸契約を結んだ以上、契約的にこれを覆すのは難しいといえます。ただし、不当に高額な更新料が設定されている場合などは例外。
更新料は通常、家賃の1~2か月くらいといわれています(うちでは1か月分を更新料としていただいています)。以上を総合すると、法律的な観点からは(妥当な範囲内の)更新料の支払いは免除してもらえない可能性が高いです。
■協力的な入居者さんには大家さんも協力してあげたい
でも、うちのような個人経営のマンションでは、ルールは絶対ではありません。少なくとも、今回のような申し出を杓子定規に断ることはしません。ケース・バイ・ケースで考えます。
こちらの入居者さんは、いつもマンションの運営に対して協力的な方でした。日曜の朝、どうしても隣室で音の出る緊急工事をしなければいけなかったときも、イヤな顔ひとつせず応じてくれました。好意的・協力的に接していただけたことは、良い記憶となって残るものです。1か月ていどの延長ですし、こんな方が相手なら更新料を免除してもいいと判断しました。
■契約延長についての合意書と火災保険の更新は必須
とはいえ、更新料は不動産屋さんがかかわる問題ですから、大家の独断で決めることはできません。早速、担当のAさんに相談してみると「アサクラさんが更新料を取らないならウチも取りません」と快諾してもらえました。
Aさんによると、賃貸契約を1か月延長するための書類を作成し、入居者さんと僕でハンコを押す必要があるとのこと。
こんな感じの書類です。延長に合意し、更新料は免除する旨が記載されています。
ご注意いただきたいのは「3」の火災保険の更新について。
入居者さんが住み続ける以上、火災のリスクは存在し続けるので、これについては更新してもらう必要があるのです。ただし、1か月して退去する際には解約することができ、保険料の一部も返ってきます。
■更新料免除は大家さんからのお礼のようなもの
勘違いしないでいただきたいのは「1か月くらいの延長なら更新料は払わないでいいんだ」というわけではないということ。先ほども述べたように、更新料はルール上、支払わなければならないと決められています。
今回の免除は、協力的だった入居者さんに対する大家からのお礼のようなものです。あくまで背景にそれまでの協力関係があったことはご理解ください。
もしほとんど没交渉の入居者さんから不動産会社を通して同じことを「要求」されていたら、僕だって断っていたでしょう。世の中にはたくさんの大家さんがいて、その数だけマンション経営の形もあります。契約や慣習やマナーはありますが、うちのケースのように大家さんとの関係性次第ではそれとは異なる結果が出る場合もあるのです。
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いかがだったでしょうか?
個人的には、ルール(法律)って自分が考える常識や倫理観が通じない人との折衝のためにあるものだと思っています。以前も書いたとおり、賃貸マンションを「だれでもウェルカム」にすると、一定数ヤバい輩が入り込んできてしまうのも事実で、そういう人たちとはそもそも話が通じないこともよくあるので、場合によってはルールを盾に取って交渉せざるをえない局面が発生することになるのです。僕もマンションを引き継いだ直後はいろいろと苦労しました。
でも、内見に立ち会って「この人なら安心して隣人になれそうだな」と思える人に入居してもらうと、自分と世界観が近い人たちがマンションに集まってくるので、話が通じなくて困るということがほとんどないのです。中には友人のように仲良くさせていただける人もいたりして。そんなふうに入居者さんとつきあっていると、今回のように表面的には自分が損をするように思える相談を持ちかけられても、なるべく力になってあげたいと自然に思えるわけです。
ちなみに、更新料についてですが、「なんでそんなお金を払わなきゃならないの?」とモヤモヤしている人は大勢いると思います。実際、友人から聞かれることもよくあります。そういうとき、僕は正直にこう答えます。
「まあ、もらえるお金はいただけるとうれしいのが経営者としての本音。
それに、大家さんみんなが横並びで慣習的にもらっているお金だから、うちだけ更新料なしにしてしまうと「そういうのを目当てにした人たち」が寄ってくるかもしれないのが怖いので、廃止もしにくい。
ただ、家賃のほかに更新料をいただく以上、そのぶんふつうの賃貸にないいろんなサービス(熱海の保養所とか山小屋とか)を提供しているので納得してもらえたらうれしい」
「更新料なし」とか「フリーレント1カ月」とか耳にしますが、ああいうのって一種の安売り競争だと思うんですよね。物件の中身で差別化できないので価格を下げて差別化するという。
でも、うちのマンションの方向性から言って、安さを競い合う戦いに参入するのって得策じゃないかな、と思うのです。ちゃんとお金をいただくぶん、それに見合った(場合によってはそれ以上の)サービスを提供する。そういうマンション経営をしたいと常々考えています。