(666)アンティークの建具を施主支給して設置してもらった話

以前、世田谷のマンションにある自室をご紹介しました。
この部屋では10年前に業者さんによるリフォームをおこなったのですが、僕自身の経験不足もあって後になって見るといろいろと不満を感じる点も少なくありません。
でも、そんな中で10年経った今も気に入っている数少ない場所のひとつが、キッチンとリビングを区切る引き違いの引き戸です。

アンティークの建具や家具を扱う専門店で購入し、施主支給して大工さんに取り付けてもらいました。今回はこの工事の一部始終についてお話しします。
ちなみに、この記事は2018年に「日刊Sumai」の連載で書いた記事に大幅な加筆訂正を加えたものであることをお断りしておきます。
■フラッシュドアだと引戸2枚で約10万円かかる
さて、アンティークのドアを施主支給なんていうとめちゃくちゃにお金がかかるんじゃないかとお思いになる方もいるかもしれません。かく言う僕もそこが心配だったので、まず大手メーカーのフラッシュドアにかかる費用を目安にして予算を考えることにしました。

フラッシュドアとは「骨組みに面材を貼ったタイプのドア」のことで、枠もセットで販売されているため工事もしやすく、設置費も安価に済む普及品。現在ではほとんどの住宅でこれが用いられており、うちのリフォームでもドアを新規に導入する場合はすべてフラッシュドアを採用してきました。

こちらは2枚のフラッシュドアの引き戸を導入した事例。「シンプル・リーズナブル・使いやすい」と三拍子そろっています。
かかった費用はというと、こんな感じ。

引き戸2枚で6万5千円、設置に2万5千円、あわせて9万円。ここに消費税(当時は8%)が加わるので97,200円≒10万円弱といったところでしょうか。10年前の価格ですから、現在では値上がりしている可能性が高いことはご承知おきください。
さすがにこれと同額というわけにはいかないでしょうが、アンティークの建具を探すうえでひとつの目安にはなりそうです。
■古福庵で一枚3万円の「透かし板戸」を選ぶ
いろいろと調べた結果、僕が選んだのが「古福庵」というお店でした。
【古福庵】
アンティークの和家具や建具を専門に扱う、いわゆる「時代家具専門店」で、修繕をしっかり施した製品を提供していることが決め手でした。
もし価格だけを追求するならばネットオークションなどを利用する方法もあったかもしれませんが、きちんと使える状態で届くのかという不安もありますし、工事までの取り置きに対応してもらえない可能性が非常に高いです。
その点、専門店の商品はしっかりリストアとメンテナンスがされており、工事期間に合わせた長期保管も請け負ってもらえるので安心です。
価格についてはピンキリですが、比較的安価な建具も多数ラインナップされているので安心して商品選びができました。先日、ひさしぶりにホームページをのぞいてみましたが、あいかわらずリーズナブルで素敵な建具が多数販売されていました。
では、あらためて僕が選んだ引き戸をごらんください。

ガラスのはめ込まれた「透かし板戸」です。

木目の美しさもさることながら、気に入ったのが真ん中にはめ込まれたガラス。

昭和の建具や窓には今では入手困難な柄のガラスが用いられていることが多いのですが、この植物モチーフの柄は初めて見ました。

価格は1枚あたり30,000円(税抜き)で、2枚購入しても60,000円です。これならフラッシュドアとほぼ同価格。想像したよりも安価でした。にわかに「いけそうだ」という気持ちが高まったのを覚えています。
■アンティーク建具の導入は工事業者との連携が大事
すぐにでもポチッとしたい気持ちをおさえ、工事担当のKさんに相談しました。
建具を施主支給したいことは以前から相談してはいましたが、やはり商品の詳細な情報を知らせて「そもそも設置できるのか否か」と、可能であるならば「設置にどれくらいの費用がかかるのか」を購入前に確認しなければならないと思ったのです。

こちらが相談後に送った実際のメール。
口頭でのサイズ確認は言い間違いや聞き間違いなどの恐れもありますので、必ずメールで確認を取りましょう。
Kさんからの返事では、サイズ的にも問題はなく設置費用もフラッシュドアの工事費+1~2万円ほどでおさまるだろうとのこと。
プラス5万円(or more)みたいな心配をしていた僕にとっては、それくらいのプラス料金で自分好みの建具が入れられるなら万々歳という気持ちで、すぐに注文手続きを済ませて無事購入と相成りました。
工事まで取り置いてもらって配送時期を調整する必要はありましたが、工事業者さんときちんと連絡を取り合ってスケジュールを確認しておいたこともあり、大した手間ではありませんでした。
■手配した建具の高さが「ちょっと低かった」のが幸いした
ポイントは建具の収まり。

既存の建具を支給品のアンティークと交換したわりに、きれいに収まっている感じがしませんか。

ドア上のガラス欄間はもともとマンションにあったものですから、手配した建具はほとんどピッタリの高さで収まったことになります。
といっても、もちろん大工さんによる枠の調整はおこなわれています。

よく見ると、既存の枠に対して、支給した引き戸に合わせた枠を付け足して、高さを調整してくれているのがわかります。
ここがポイントで、支給した建具が既存の枠よりも「ちょっと低かった」おかげで、枠の厚みを足すだけで(比較的容易に)設置することができたのです。
逆に、もし「ちょっと高かった」りしたら、建具上にあるガラス欄間も解体し、新たに下がり壁を造作するといったような大がかりな改修が必要になったことでしょう。当然、費用もアップしたはず。
この点はあまり考えずに建具を選んだのですが、うまく収まってラッキーでした。
■古い建具は開閉時にそれなりに音がするので注意

一方、足下には建具に合わせた金属レールが設置されました。
アンティークなので開けづらさは覚悟していたのですが、大工さんがしっかりと調整してくれたおかげで本当にスムースに開くことができ、現在に至るまでストレスなく開け閉めできています。
とはいえ、古い建具でガラスもはめ込まれているため、開閉時にはそれなりに音がします。
動画を撮ってみました。ガラガラというか、ガシャガシャというか、そんな感じです。昔の家の玄関でよく耳にしたあの音です。
僕は築古の物件にしか住んだことがないのでまったく気になりませんが、新築の家で「スーッ」と開くドアに慣れてしまっている人には気になるのかもしれません。アンティークの建具を検討する方はこの点も念頭に置いておくべきでしょう。
■建具の枠の塗装仕上げには後悔も残る
後悔しているのは枠の塗装のこと。

先述したガラス欄間の枠も含めてドア回りの既存部分は、リフォーム前に塗られていた色が気に入らなかったので、建具の木部に合わせるつもりでダークブラウンで上塗りしてもらったのですが、アンティークの建具とならぶと質感や色味にギャップを感じてしまうのです。

特に日光が差し込むお昼には、赤茶系の建具に対して木部を塗装したペンキの色が濃い紫のように見えてしまい、ミスマッチに感じられてしまいます。こんなことならいっそ枠は壁にそろえてクリーム色に塗ってもらったほうがよかったと後悔しています。

ちなみに、建具の右横の戸袋を兼ねた壁はクリーム色で塗られていたのですが、

DIYで板を張って引き戸の色に合わせてステインとブライワックスで塗装しました。塗装仕上げの枠は依然気になりますが、板張りの壁で全体の雰囲気はぐっとよくなりました。
リフォームで支給したアンティーク建具を取り付ける場合、既存の部分とどうやって組み合わせるかはよく考えたほうがいいと思います。
■アンティーク建具とフラッシュドアとの差額は1万円未満
最後に、気になる予算についてまとめましょう。
まず、引き戸2枚の本体価格がこちら。

1枚30,000円で当時は消費税が8%だったので税込「32,400円」。これが2枚で、送料「1,987円」が加わり、合計「66,787円」でした。
ここに設置費が加わります。

税抜きで35,000円なので税込み「38,500円」。
本体と合わせると「105,287円」になりました。
冒頭にご紹介したメーカー製のフラッシュドアを入れたときの費用が「97,200円」だったのとくらべると差額はたったの8千円でした。これなら十分に検討する価値があると思います。
「アンティークの建具を施主支給して現場に合わせて設置してもらう」という工事内容から想像するよりも、かなり安く済んだと感じますが、いかがでしょうか。

きっとお金がかかるんだろうな、と尻込みする前にぜひ検討してみてください。
■ヨーロッパ製の開き戸だと価格は大きく変わるので要注意
ご注意いただきたいのは、これはあくまでうちのマンションに対してうちの業者さんが10年前に出した価格であるということで、工事業者や工事内容によって現在では価格が大きく異なる可能性があるのは言うまでもありません。
引き戸ではなく開き戸を検討している方は特に注意が必要です。

山小屋の離れのリフォームの際にトイレのドアにヨーロッパ製のアンティークの開き戸を検討したことがありました。
ヨーロッパ製のアンティークドアはお手頃なものでも1枚で6、7万はします。この時点で今回の引き戸の2倍ですが、これはあくまで「すっぴん」の状態。いざリフォームに用いるとなると、古い丁番の穴を生めたり、欠けを補修したりするための料金が別途に必要となるそうです。
さらに、アンティークの開き戸はノブやハンドルがない状態での販売が多いので、それを購入して(1~2万円)取り付けなければなりません。もろもろ含めると、開き戸1枚を使用できる状態に持ってくるだけで11~12万円には届きそうなのです。
さらに、開き戸の設置には高度な技術がいるため、大工さんにドア枠を現場で造作してもらうと設置費は軽く6万はかかるんだとか。
となると、アンティークの開き戸の設置は最低でも「17~18万円」かかる計算になり、山小屋での採用は見送りました。
開き戸を施主支給して設置してもらおうと検討している方は、今回の引き戸の費用の倍くらいを支払う覚悟をするべきでしょう。