(719)【日刊Sumai再録】沖縄・今帰仁の宿「irregular INN Nakijin」を紹介する(後編)
前回に引き続き、今回も「日刊Sumai」の再録記事をお届けします。掲載時のタイトルは「中古物件のエキスパートが沖縄につくった民泊物件はリノベのアイディアが満載」(2019年8月7日公開)です。
かれこれ7年前の記事になりますので、宿に関する最新情報については公式ページをごらんください。
【irregular INN Nakijin(イレギュラー・イン・今帰仁)】
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「中古物件のエキスパートが沖縄につくった民泊物件はリノベのアイディアが満載」
前回に引き続き、沖縄にこだわりの民泊物件を作った室田啓介さんにお話をうかがいます。
室田さんは「東京R不動産」でおなじみの会社「スピーク」に勤めながら、ご自身も「irregular」という会社の代表としてさまざまな物件を手がける、いわば中古物件再生のエキスパート(※2026年3月現在、「ホビー不動産」代表)。
今回は、室内のディテールをごらんいただきながら、その背後に隠された工夫と苦労に迫りたいと思います。
■リゾート感とモダンさのバランスが絶妙なインテリア
室田さんの物件のベースは築50年超の木造平屋。

セメント瓦が沖縄ならではのエキゾチックな雰囲気を醸し出します。ガラス張りに変えられたエントランスまわりも明るくていい感じ。

リビングは「既存の天井を抜くことで天井高4.4メートルを実現した開放感」が印象的。
いわゆる沖縄古民家に寄せすぎるとよくある感じになってしまうし、かといって海まで歩いてすぐというリゾート物件でもないため、インテリアについては「沖縄や海を連想させる、ありがちなインテリアに寄せることなく、さまざまな国や年代のオブジェをミックスさせることで、無国籍な雰囲気と、一瞬どこに来たのかわからなくなるような不思議な感覚が生まれる感じを狙った」そうです。
モルタルの土間や白壁が演出するモダンさとのバランスも絶妙だと思います。個人的にはリゾートホテルのコテコテな南国インテリアよりもリラックスできそうだと感じました。

洗面やトイレの床もモルタルで統一され、シンプルモダンな清潔感を感じさせます。
「(モルタルの施工は)現地の職人さんが慣れない工事だったらしくて、土間を囲んで養生テープの跡がぐるりと残ってしまったりしましたが、それもこの土地の現場ならではの味ということでよしとしました」
■お金をかけずに洗練されたディスプレイを作る工夫
室田さんが沖縄に足を運んだのは5回ほどだそうです。限られた訪問回数のなかで工事を進めるのはさぞや大変だったことでしょう。
そんな室田さんの苦労の結晶が、リビングの壁にしつらえられた飾り棚をはじめとする調度品の数々。

この棚を初めて見たとき、古い置物やレトロなオーディオなどを組み合わせてディスプレイするセンスに感心しました。

聞くところによると、これらの雑貨のうち室田さんがセレクトしたのはごく一部だそうで。
「実は、この点については自分の趣味をあまり信用していなくて(笑)。自分のセンスより信頼できる、toolboxではたらく渋谷南人というスタッフを巻き込んで、インテリアのディレクションをお願いしてイチから選んで集めたんです」
(※註:室田さんがお勤めのスピークは、以前ショールームをご紹介したtoolboxの系列会社に当たります)
中古物件再生のプロだからこそ、大事なところは人に任せたということなのでしょう。

でも、イチから集めたということはけっこう費用がかさんだのでは?
「こういうものはアンティークショップで探すと高くて手が出ないので、主にリサイクルショップやオークションサイトで集めました」
考えてみれば、評価の定まったものばかり集めてもありきたりなインテリアになりがち。リサイクルショップやオークションサイトで売られているのは素性の知れない品々が多いのですが、意外な掘り出し物や自分の感性に刺さる品が見つかる可能性もあります。大事なのはお金よりもセンス、ですね。
■運送会社と直接交渉してコストダウンする努力に脱帽
ちょっと真似できないと思ったのが、いろいろと買い集めた調度品の数々を沖縄まで運ぶ方法。全国の郵便料金を比較すれば一目瞭然ですが、沖縄まで荷物を送るとメチャクチャ高くつきます。

せっかくリサイクルショップやオークションサイトで安価に入手しても、輸送費が高額になってしまえば意味がありません。
そこで、室田さんはダメ元で沖縄の運送会社をあたり、船の空きスペースに自分の荷物を積んでもらえないか交渉したそうです。これがうまくいき、正規のルートにくらべてかなり安い額での輸送に成功。
こういうタフな交渉はなかなか僕たち素人ができることではないと感じました。港までは自分のクルマで荷物を運ばねばなりませんし、沖縄でも倉庫に一時保管してもらった荷物を、自分が現地入りするタイミングで物件まで運んでもらわねばならず、交渉力だけでなく文字通り足を使っての作業もこなしているわけで、遠隔地でゼロから物件を立ち上げる大変さを痛感しました。
■「物件の肝」は屋内バーベキュー可能なダイニングキッチン棟
さて、室田さんにこの物件の目玉を聞くと「ダイニングキッチン棟」と即答されました。

室田さんが物件を考えるときに大事にしているのは、物件の外(周囲)の環境との関係性だそうです。
「実は、僕の物件では周囲の景観や環境などを積極的に売りにはできないと思っていました」
そうなんですか?「美ら海水族館」も「赤墓ビーチ」も車で10~20分だと聞きましたが。
「でも、目の前が海だというわけではないですし、近所にはふつうに建売住宅がならんでいたりします。物件の中だけで完結して楽しめる工夫が必要だと考えたんです」

「そこで、敷地内にわざわざダイニングキッチンのためだけの建物を新たに造り、グレードの高いバーベキューセットを設置しました」

「天気が悪くて出かけられなくても室内でバーベキューが楽しめる――この体験がこの物件の肝です」
たしかに、沖縄に旅行したけれど台風にぶつかってホテルに缶詰めになったという話はよく耳にしますものね。

ありきたりなホテルに閉じ込められては退屈と感じるかもしれませんが、こんなダイニングキッチンがあれば屋内でも楽しめて良い思い出が作れそう。
周囲の環境を頼りにしないことで、天候に左右されない物件が生まれたともいえます。
事実、室田さんの物件のAirbnb(エアビーアンドビー)のレビューを見ると、こんな言葉が。
「当日は天候に恵まれませんでしたが、その分宿でゆっくり過ごし、贅沢な時間が持てました。見た事のない海外ブランドのBBQ機材やハンモックなど、子供も一緒になって家族みんなで楽しめました」(レビューより引用しました)
まさに室田さんの狙いが当たったということでしょう。
■宿泊料金をどうやって決めるか聞いてみた
これだけよく練り上げられた物件ですから、宿泊料金もさぞ高いことだろうと思いきや、話をうかがった7月16日時点で宿泊料金は一泊18,000円(一棟貸し4名まで、追加料金で7名まで可)からと意外なほどリーズナブル(※掲載当時の価格。最新の宿泊価格については公式ページを参照ください)。

Airbnb(エアビーアンドビー)の場合、清掃代金を別途払う必要がありますが、それにしても安すぎませんか?
「素泊まりなので、たしかに沖縄のリゾートホテル相場と比べたらずっと安いです。
Airbnb(エアビーアンドビー)の仕組み上、最初のレビューがそこそこ集まらないと検索に引っかかりづらいそうなので、まず最低限のレビューが集まるまで辛抱しています」
そうかあ、こんなに良い物件でも作っただけではお客さんは集まらないんですね。

現在はお試し期間での出血サービスというところでしょうか。
「これでも、今帰仁村(なきじんそん)の周辺の物件とくらべたら高いくらいなんですよ。でも、屋根があって寝られればいいというゲストには泊まってほしくないし、僕のように“この宿に泊まりたい”というお客さんに来てほしいんです。一般的なホテルに泊まると一泊ひとり1万円くらいはしますから、家族4人で泊まったら4万円ですよね。自分としてはこの金額が基準になってくるだろうと思っています」
うん、この物件ならひとり1万円でも十分に納得だと思います。Airbnb(エアビーアンドビー)は自分の物件の値段を自分で決めるので、客観的な視点を持つことや値付けに対する自分なりの根拠を持つことが大事なんだと感じました。

中古物件再生のプロが手がけたこだわりの民泊物件、いかがだったでしょうか?
僕も入居者さんに使ってもらうための山小屋を整えている最中なので、すごく勉強になりましたし、民泊の醍醐味も少しわかってきたような気がしました。次の旅行ではホテルの代わりに民泊を探してみるのもいいかなと思っています。
【紹介した物件はこちら】
irregular INN Nakijin(イレギュラー・イン・今帰仁)

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さて、自分で読み返してみて感心したのは室田さんの「バイタリティ」。
取材当時は「すごい!」と思うばかりでしたが、自分自身で熱海の物件などを手がけた今となっては、沖縄という遠隔地でこれだけこだわりの詰まった宿を作ることの大変さは身に染みて実感できます。
なんでこんな大変な仕事ができるのかといえば、やっぱりそれは室田さんが「楽しむ気持ち」を持って仕事に臨んでいるからなんでしょうね。僕もまた何か新しいことにチャレンジしたいなあ、とあらためて思いました。


















