(448)京都のホテル「nol kyoto sanjo」宿泊体験記
先日、コロナ禍もあって足が遠のいていた京都をひさしぶりに訪れました。今回はホテル「nol kyoto sanjo」の宿泊体験記をお届けします。
■「nol kyoto sanjo」を選んだ経緯
まずはホテル選びの経緯から。
若いころは安さばかり追求してホテルを選んできましたが、最近は仕事柄インテリアの参考になりそうなホテルに宿泊するようこころがけています。
そこで、ひさしぶりの京都でも少しだけホテルにこだわってみました。この「少しだけ」というのがポイント。ホテルというのは設備にしてもインテリアにしても眺望にしてもこだわりだすとキリがないもので、グレードも天井知らずの文化です。わざわざそのホテル(や旅館)に泊まるのを目的に旅行に行く人もいるでしょう。
僕の場合は「せっかくの旅行だし、ふつうのホテルだと味気ないので、いつもとは一味ちがうホテルがいいな」というくらいの感覚でした。
条件としては、夫婦二人の旅行で日曜から月曜までの一泊(素泊まり)、予算としては二人あわせて一泊30,000円くらいまで、ショートステイなので京都の中心で交通の便が良い場所を選びたい、といったところ。
そんな条件を満たすホテルとして選んだのが「nol 京都 三条(nol kyoto sanjo)」でした。
場所は烏丸御池駅から徒歩5分、公式ページの写真を見るとお部屋の雰囲気も良さそう。
グレードは3段階あって、当初はいちばんリーズナブルな部屋(「Tsuboyu Superior」)を選ぶつもりでしたが、早割プランを使えばひとつ上の「Hibaburo Deluxe」でも予算内に収まることがわかりました。
素泊まりで24,870円ということで予算的にも問題なし。なお、宿泊したのは5月でしたが、日曜から一泊ということでゴールデンウィークや通常の週末とくらべるとだいぶ安く済んでいます。
■町家をリノベーションしたロビー
さて、5月の日曜日、新幹線にて京都に到着。京都駅からは市営地下鉄で烏丸御池まで5分、さらに駅からホテルまで歩いて5分のイージーアクセス。荷物を持ってゆっくり歩いても10分はかからないでしょう。期待どおりの立地でした。
⽇本酒造「キンシ正宗」の販売所だった町家をリノベーションした建物がホテルの顔です。いかにも京都らしいたたずまい。
のれんをくぐって中に入ると落ち着いた雰囲気のエントランスロビー。
ちなみに、ロビーのすぐわきには宿泊者専用の「町家ラウンジ」が併設されていて、夜9時まで飲み物やスナックなどを自由に楽しめます。日本酒も飲みくらべることができるらしいのでお酒好きにはうれしいサービスでしょう。
チェックインを済ませると、トンネルのような廊下を通って町家の奥に建てられた宿泊棟に移動します。
実をいうと、古い町家をリノベーションした空間は先ほどのロビーのみで、宿泊客が寝泊まりする部屋があるのは町家の背後にある新しい建物です。その意味でいわゆるリノベーションホテルではないのでご注意ください。
植栽の印象的なエレベーターホールからそれぞれの部屋に移動します。
町家ラウンジからこのエレベーターホールへの動線は洗練されていて、なんだか特別な時間を過ごせそうな期待感を抱かせます。
■40平米の広さでゆったり「Hibaburo Deluxe」
では、僕らが泊まった「Hibaburo Deluxe」をごらんください。
ドアを開けるとこんな感じ。第一印象は「おー、広いな」。
公式ページの間取り図を参照してみましょう。
一般的なホテルだと限られたスペースを有効活用するために、ムダな余白を設けずにキチキチな空間を作るので息苦しい部屋になりがちですが、この部屋は40平米という広さを活かして、
ベッド前にリビング的なスペースを設けてあったり、
洗面やお風呂もゆったりと作ってあったり、贅沢な空間の使い方をしています。
なお、公式ページの情報によると、ひとつ下のグレードの「Tsuboyu Superior」はというと…
こんな感じのお部屋で26平米ですから、14平米のちがい。僕の記憶では3、4千円ほど料金がちがったはず。
ふだん物のあふれた30平米に暮らしている身からすると、余計なもののない40平米はかなり広々としていて、一人2千円ずつ余計に払って広さを買ったと考えても良い選択をしたと思います。
ついでにいうと、いちばん上の「Tsuboniwa Suite」は50平米。
畳敷きのサービスルームがつきます。さすがに僕ら夫婦には贅沢すぎる広さで持て余してしまいそう。
■洗面と檜葉風呂がこの部屋のハイライト
この「Hibaburo Deluxe」のハイライトは水回り=洗面とお風呂だと感じました。
洗面はオープンキッチンのようにリビング部分に面して開けて配置されている珍しい間取りです。デザイナーズっぽいインパクト重視の洗面かと思いきや、意外にも実用性に富んでいます。
リビング側から洗面を見たところですが、裏側にまわってもまったく構造は変わりません。
鏡が両面についていて洗面ボウルに対してサイドに立水栓が設けられているので、向かい合って二人が同時に使うことができるのです。チェックアウト前に洗面を取り合う心配がないのは人によってはかなりポイントが高いのではないでしょうか。
ホテルにかぎらず、朝の慌ただしい時間には家族で洗面を取り合うというのはよくある話で、そんな状況を改善すべく洗面をふたつならべて設置するお宅もありますが、洗面を両側から使えればスペースを有効活用しつつ問題を解決できるんだなあ、と感心しました。
洗面の右横が浴室。
お風呂に入ろうとした妻がふと漏らした言葉です。
たしかにカーテンがありません。ああ、デザイナーズ物件にありがちな欠点が……と思ったら、きちんと解決案が準備されていました。
建具を引き出すと水回りを間仕切れるようにできているのです。
おお、ちゃんとクローズドな洗面になった!
先ほどは両面から洗面を使えることに感心しましたが、建具で区切れる構造もよく考えられています。僕が管理する世田谷のマンションは限られたスペースにカップルが暮らすケースも多いので、このように空間を柔軟に使う発想はたいへん勉強になりました。
さて、視線の問題も解決し、ゆっくりお風呂に入ってみました。
部屋の名前の由来となっている「Hibaburo=檜葉風呂」が目を引きます。檜葉は、文字通りヒノキ(檜)の仲間で「アスナロ」の名で知られる木種。
お湯を注ぐとヒノキに似た独特のかぐわしい香りが浴室に広がります。広さも申し分なく、167センチの僕だと足をほぼ伸ばすことができました。私事で恐縮ですが、僕は京都に行くとよく歩きます。今回も一泊二日で5万歩近く歩きました。さすがに足に疲れがたまってくるのでお風呂にのびのび浸かれるのは自分にとっては大事なポイントでした。
レインシャワーを頭上から浴びるのも非日常感のある体験で楽しい。
■京都グルメをテイクアウトするのもおすすめ
「nol kyoto sanjo」は「京都中心街で暮らすホテル」を自称していて、洗濯機やキッチンを備え付けているのも特徴です。
キッチンの引き出しを開ければ鍋やIHコンロ、
器やカトラリーもしっかり準備されています。
リビングには椅子とテーブルもあるので簡単な食事を取ることもできます。
僕らが京都を訪れた初日は日曜日で街中はけっこう混雑していました。お茶の一保堂のカフェは満員で入れなかったですし、昼ごはんを食べようと思っていた「末廣」はお祭りの関係でテイクアウトのみ。
そんなわけでお茶と寿司を持ち帰ってテーブルで食べましたが、まわりに気を使わないで済んだのでかえってよかったと思うくらいでした。
ミニキッチンには調味料もありませんし水切りラックもありませんから、食材をゼロから調理するような本格的な料理には不都合があるでしょうが、買ってきたものを食べるなら十分すぎると思います。錦市場も近いですし、買い物には困りません。
電子レンジやドリップポットもありますから、買ってきた料理を温めるとか、淹れたてのコーヒーをパンやお菓子と一緒に楽しむとか、ふつうのホテルよりも食の楽しみが広がります。このホテルを拠点に京都のグルメをテイクアウトしまくる旅行も楽しいだろうと思います。
京都の中心にあるので、ちょっと遅い時間でも気楽に出かけられるのもいいですね。
■個人的にはもう少し個性の強いインテリアが好きだけれど
こんな具合に「nol kyoto sanjo」はなかなかよく考えられた快適なホテルです。
以下では気になった点や注意が必要な点にも触れましょう。
ホテル内には食堂・レストランはありません。朝食を取り寄せるサービスなどはあるようですが、あくまでオプション。冒頭にご紹介した町家ラウンジで飲み物とお菓子が提供されている以外、食事は外で済ますといった割り切ったシステムになっています。
また、室内のお風呂が充実しているぶん大浴場もありません。
ひょっとしたら、共用部を削ることで他のホテルよりもコストダウンをはかっているのかもしれません。室内を充実させる考え方は僕の好み的には大歓迎ですが、好みは分かれるでしょう。
なお、街中の低層ホテルなので眺望はまったくありません。というか、障子の向こうにはロールカーテンが降りていて、外の景色は意識的に隠されています。窓から京都の景色を楽しみたいという方にはおすすめできません。
内装は適度に和室感を取り入れていますが、基本のスタイルは洋室なので靴は履いたまま過ごします。ホテルとしては当たり前ですが「暮らすように泊まる」ならいっそ靴を脱ぐスタイルでもよかったと思いますけど、外国からのお客さんが多そうだから難しいのかな。
それと、これは個人的な好みの話になりますが、インテリアがこぎれいにまとまりすぎていてもう少し個性を押し出したほうが自分は好きだな、と気づきました。
これまで泊まったホテルとくらべると、以前ご紹介したホテルクラスカの部屋や、「日刊Sumai」で取材させていただいたno service hotel(ノーサービスホテル)の部屋のほうが、インテリア的には好みです。どちらもリノベーションホテルで古い建物を活かしつつデザイナーが個性を盛り込んでいて、部屋を眺めているだけでも楽しいと感じられました。それにくらべると、「nol kyoto sanjo」はいかにもホテル然としていてやや面白味に欠ける印象を持ちました。
調べてみると、「nol kyoto sanjo」の経営母体は東急不動産。先に挙げた二つのホテルとくらべると格段に規模が大きい企業ですから、どうしても幅広い層に訴える手堅いスタイルを強いられるのでしょう。
ノーサービスホテルはたった2部屋しかないホテルですし、ホテルクラスカの部屋も複数の個性的なデザイナーがそれぞれ独自に室内をデザインするというコンセプトの下に作られた特殊な部屋でした。ターゲットを狭く絞って掘り下げることの可能なこれらのホテルとは「nol kyoto sanjo」は目指している方向がちがいます。面白みに欠けるという評価は、あくまでアサクラの好みの話とお考えいただければ。
もちろん、新築だからこその良さはあります。リノベーションホテルにありがちな設備的な不自由(断熱や防音など)がないのは安心感を感じられるはず。ホテルらしいピシッとした清潔感もあるので、尖ったホテルに泊まるつもりはないけれど、ふつうのホテルだとちょっと味気ない……そんな人にぴったりだと思います。いつものホテルよりちょっぴりだけ贅沢したという気持ちが味わえるのはまちがいありません。宿泊費も比較的にリーズナブルなので予算が許すなら長期滞在もありですね。
インテリア、使い勝手と宿泊費など、全体のバランスを考慮するとコストパフォーマンスはかなり高いホテルだと思いますし、素晴らしい京都滞在となりました。機会があれば再訪したいと思います。