(105)ヤフオクで入手した天童木工の名作・低座椅子のこと
第89回でも書いたとおり、天井の低い屋根裏部屋のような構造なので机やイスを置くのはあきらめ、床座りするスタイルにしました。
それでも一脚だけ置いたのが、天童木工の低座椅子です。
日本屈指の名作イスとして知られ、日本人デザイナーによる優れたイスを集めた本『美しい椅子2』(枻文庫、2004年)では表紙に掲載されています。
この本によると(66,67ページ及び84ページ)、低座椅子はデザイナーの長大作氏が歌舞伎役者の八代目松本幸四郎=初代白鸚(現在も活躍中の二代目白鸚のお父さんにあたる人物)の自邸のためにデザインされたものだそうです。
「和室でくつろげる椅子を」というリクエストに応えて作られたとあって、イスでありながら和室に似合うデザインとなっています。
『美しい椅子2』の84ページには端正な和室に低座椅子が置かれた様子を撮った写真も掲載されていますので、興味のある方は手に取ってみられるとよいでしょう。
さて、山小屋ではこんな感じに置いています。
うちの山小屋のような洋風だか和風だかよくわからない空間にもマッチします。
いわゆる日本旅館に置かれた座椅子とくらべるとモダンなデザインのおかげでしょうか。
窓辺に置いて外を眺めるのも気持ちいいです。
座り心地はというと、これがデザインに劣らず素晴らしい。
僕がこのイスを気に入ったのもお店で実際に座って座り心地の良さを実感したからでした。
座椅子にしては座面が高いため老人にも座りやすく、子どもが座ると体を包まれるような安心感があるようです。
これは親戚のちびっこが座ったところ。
老若男女に評判がよかったので、思い切ってマンションの一室にも採用してみました。
この部屋は、既存の障子を活かし、床に「ココフロア」を市松貼りにした和室風のインテリア。
ここに低座椅子を置きました。
やはりこういう空間にはぴったりですね。
木目調の床材と壁紙を組み合わせたリビングに置いてもなじみます。
内見時の評判も上々で、入居を決めた方にも喜んで使っていただいています。
強いて難点を挙げるとすれば、机を置いての食事や仕事には向かないこと。
体をあずけてゆったり座る姿勢になるので、テレビを見たり読書をしたりするにはいいのですが、前傾姿勢は取りづらいです。
ちなみに、同じ長大作氏によってデザインされた高さの異なる中座椅子もあります。
同じく天童木工から販売されていますが、低座椅子の290ミリにくらべて55ミリ高い345ミリとなっています。
ダイニングチェアもあります。
座面が395ミリと低座椅子よりも約10センチ(中座椅子よりも5センチ)高くなっています。
通じるのは、独特な丸みを帯びた背もたれのデザイン。
先に挙げた『美しい椅子2』によれば、このかたちは柿を切った断面からヒントを得たデザインなんだそうです(67ページ)。
さて、低座椅子のもうひとつの難点を挙げれば、価格の高さでしょうか。
張地のグレードにもよりますが、価格は71,000円から82,000円。
イス一脚に7~8万円を出せる人は限られるでしょう。
かく言う僕も新品はあきらめ、ヤフオクで中古品を手に入れました。
低座椅子は名作として有名なこともあり、ヤフオクにもコンスタントに数品は出品されていますから、急ぎでなければ「天童木工 低座椅子」でアラートをかけて、気に入る色や納得できる状態のものが出るまで待ってみるとよいでしょう。
僕の場合、座面の張地が張替えの必要がないくらいはきれいな状態のものを狙い、予算2万円くらいを目安に落札しました。
山に置いた赤のタイプは21,000円で落札。
一方、マンションに置いたブラウンのタイプは20,500円。
どちらも送料は別。
大型の家具なので送料がかさむ場合も多いので、そのへんも確認しつつ探すとよいでしょう。
ネットオークションは写真のみで状態を判断するので心配な部分もありますが、思ったよりも良好な状態でした。
若干、座面に色あせはあるものの、個人的には気にならないレベル。
もし美品を希望であれば、予算を3~4万くらいに設定すればかなりきれいな状態のものが手に入りますし、張地の状態が悪いものを安く落札して好みの色に張り替えるという方法もアリですね。
手間やお金をかけるだけの価値のある名作だと思います。