(157)【小さな家の小さな本棚⑦】『簡単住まいのDIYマニュアル タイル張り[玄関・リビング・キッチン・テーブル]』
今までマンションや山小屋の十数カ所にタイルを貼ってきましたが、実践で学ぶことが多い反面、「もしこの知識を事前に知っていれば……」と悔やむような失敗もたくさんしてきました。
僕がタイルDIYに挑戦し始めた頃は初心者にわかりやすく情報をまとめた書籍がなく、ネットで集めた情報を自分なりに再構成して工夫するしかありませんでしたが、知らないうちにこんなわかりやすい本が出版されていました。
『簡単住まいのDIYマニュアル タイル張り[玄関・リビング・キッチン・テーブル]』(スタジオ タック クリエイティブ、2017年)というハウツー本です。
今回は、僕が我流でおこなってきたタイルDIYで気づかなかったポイントなどを中心に本書をご紹介してみたいと思います。
そういえば、このタイトルを見るかぎり、やはり「タイル張り」が正しいみたいですね。
今回の原稿では書籍の表記に則り「タイル張り」と書きます。
さて、本の内容はというとタイトルに偽りなく、まるごと一冊タイルの張り方について書いてあります。
こういう本が欲しかったんですよ。
DIYのさまざまな方法を紹介した書籍だと、タイルに割かれるページは2、3ページしかなく、実際の施工において気になる肝心な部分にはまったく言及されていないことが多々ありました。
この本は「どんな道具を使うか」「接着剤にはどんな種類があるか」といった基本的な情報からはじまり、
タイルの張り方についても、「テーブルに張る場合」「キッチンに張る場合」「ブリックタイルの場合」「玄関の床に貼る場合」などなど、素人がDIYで挑戦したいシチュエーションは大体網羅されています。
基本的な貼り方については「テーブルトップにタイルを張る」(40ページ~)の項目で説明されています。
まず参考になったのは接着剤の塗り方について豊富な写真で見ることができたこと。
前々回も書きましたが、接着剤は厚く塗り過ぎるとはみ出てしまい、薄いとしっかり接着できないのでなかなか難しいのですが、きちんとした写真で見やすく説明されています。
個人的な感想をいえば思ったよりしっかり塗ってもいいんだという感じ。
また、僕はコテで塗り広げてから別のヘラでクシ目をつけましたが、本書ではクシ目のついたコテで両方を一気にやっています。
このへんはプロっぽいですが、無理に真似すると均一に塗るのは難しいかも、と思ったりしました。
そして、「自分がまちがってた」と思い知らされたのが、タイルのオモテに貼られた紙をはがすタイミング。
以前も書いたとおり、タイルには表面に紙が貼られてシート状になっているタイプがあり、こちらが主流です。
僕はいつも接着剤が乾いてから紙をはがしていましたが、
本書では接着剤で張りつけてすぐに紙をはがしていました。
接着剤が乾く前ならばシートとシートの間のズレを直したり、シートに加工する際に斜めになってしまったタイルの向きなどを直すことができるからです。
これは納得でした。
僕は紙貼りタイプはほとんど選ばないのですが、次に紙貼りを張るときはこのやり方でやるつもりです。
目地入れについては、ゴムベラで目地を塗り込み、スポンジから布へと進んでいく手順は承知のとおりでしたが、参考になったのが「目地材の拭き取りは乾き加減がポイント」(55ページ)という点。
僕の印象では、目地は作業しているあいだにどんどん乾いていってしまう印象が強く、全体に塗ったら、すぐにスポンジで表面をふき取ろうとあせってしまうのですが、ここで「しばらく乾かして目地を固く」(55ページ)するのがコツなんだそうです。
ただ、待ちすぎるとカサカサになってしまうので、そのへんは難しそうですね。
結局のところ、こういうところは経験がものをいうのかもしれません。
続く「キッチンの壁にタイルを張る」のチャプターでは、ぐっと本格的なタイルDIYが紹介されています。
キッチンにはガスのリモコンやスイッチパネルなど、さまざまな「障害物」があり、タイルを張るにはタイルカットを避けては通れません。
このカット方法についても「タイルの切り方」と題した項目が立てられており(136ページ~)、
以前僕が紹介した「喰い切り」を利用したカット方法に加え、「グラインダー」や「専用の切断器」を使う本格的な方法も紹介されています。
こういった踏み込んだ部分まで紹介した書籍は今まで少なかったので、より先に進みたい初心者にはうれしい構成です。
キッチン編ではタイルと壁を埋めるコーキングについても紹介されており、この書籍をベースにネットなどで個別に気になる点をリサーチすれば情報としては十分。
あとはやる気や根気があれば、キッチンのタイルだって張り替えられるはずです。
さらに、本書では「ブリックタイル」の張り方も紹介しています。
「ブリックタイル」とはレンガを模したセメントタイルのこと。
個人的には、もとからレンガが用いられている欧米の建物を真似して日本の家にレンガ風の素材を張るのには違和感を抱いてしまうのですが、それはそれ。
最近、ブルックリンスタイルとか呼ばれるインテリアなどで見かける素材ですから、そういう雰囲気をめざしたい向きには参考になる情報でしょう。
上記のほか、「玄関の床にタイルを張る」「玄関に腰壁を作る」など、さまざまな実践方法が紹介されており、これからタイルDIYに挑戦したい方には参考になること請け合いです。
ネットで情報を集められたとはいえ、手探りで始めるしかなかった僕からすれば夢のような本だと言っても過言ではありません。
しかし、最後に「ないものねだり」を言わせてもらうと、不満な点が2つあります。
まずひとつめは、費用の話がまったく出てこないこと。
タイルはDIYで施工すれば、職人さんに頼むよりもぐんと安く済ませることができますが、それでもタイル本体の費用はかかってしまうので、キッチンや玄関のようなそこそこ広い範囲を施工しようとすると、けっこうな金額がかかってしまいます。
初心者にとっては「ここにタイルを張ったらいくらかかるか」は割と切実な問題だと思うので、そのへんについても書いてもらえるとよかったなと思いました。
ちなみに、以前「日刊Sumai」の連載でこんな原稿を書きました。
「住まいの設計」2020年6月号にも掲載されているので、よかったらどうぞ。
小さな玄関土間にタイルを張った費用は約12,000円。
見積もりを取ったときの金額は55,000円だったので、差額は4万円以上になります。
タイルをDIYしたいという動機が経費節約にある人も多いと思うので、こういう情報もあると助かると思います。
そして、ふたつめの不満は、施工例のタイルがどれも今ひとつおしゃれじゃないということ。
いや、素人がえらそうに言えることじゃないのはわかってるんです。
でも、なんかタイルのチョイスや目地色のチョイスがどれも微妙なんですよ。
広く一般向けに書かれたハウツー本ということで、あえて無難なチョイスをしているのかもしれませんが、キッチンのタイルとか「せっかく張り替えてこれ選ぶか?」という地味で野暮ったいもの。
タイルには、掃除のしやすさや耐久性といった機能面だけでなく、インテリアの雰囲気をガラッと変えるデザイン面での素晴らしさがあると常々思っている自分からすると、この点は残念としか言いようがありません。
まあ、「タイル選びなんて好みの問題」と言われればそれまでなので、僕の個人的な感想と思っていただければ幸いです。
苦言も呈しましたが、タイルDIYに挑戦しようとする方にはぜひ手に取っていただきたい一冊です。