(227)【小さな家の小さな本棚⑪】猪野正哉『焚き火の本』

小さな家の小さな本棚

唐突ですが、今年は焚き火をやってみようかな、と思っています。

今やホスト芸人としてよりもキャンプ芸人として定着しつつあるヒロシさんを筆頭に世は空前のキャンプブームですが、その中心が「焚き火」であることはまちがいないでしょう。

焚き火

僕個人はというと、塊で肉を焼くためにしょっちゅう火は熾してきましたが、火を眺める時間そのものを楽しむなんて考えたこともありませんでした。火はあくまで調理のための手段でしかなく、目的ではなかったのです。

しかし、昨年から続くコロナ禍の終わりが見えないなか、どうやったら感染リスクを抑えながら山小屋にお客さんを招くことができるかを考えるようになり、屋外で完結する娯楽として焚き火が気になるようになりました。

肉を焼くのも楽しいけれど、火を囲んで家族や友人とのんびりとした時間を過ごすのも意外に楽しいんじゃないか。屋外で焚き火を楽しみ、お客さんは離れ小屋で、僕ら夫婦は母屋で別々に眠るようにすれば、感染リスクはかなり抑えられるはず。

前置きが長くなりましたが、そんなことを考えていた矢先、本屋で目にとまったのが今回ご紹介する『焚き火の本』(猪野正哉著、山と渓谷社)だったわけです。

焚き火の本書影

思わず手に取ってみると冒頭にはこんな言葉が。

いま、あなたは焚き火に興味を持ってくれている。表紙の写真に惹かれ、ページをめくってくれたのだろうか。(中略)焚き火の魅力を伝えること。これが本書の狙いであり、私の肩書「焚き火マイスター」としての役目である」(14ページより引用)

帯にも謳われていますが、著者の猪野正哉氏は「テレビ・雑誌などで活躍中の焚き火マイスター」なんだそう。

著者の猪野正哉氏
※帯より引用

「石橋、薪を焚べる」などのテレビ番組でも監修を務めており、まさに「焚き火の伝道師」のような方です。

パラパラとめくってみると、豊富な図解と写真はもちろん、ビギナーに対する優しさを見せつつもマナーはしっかりと説く、頼りがいのある兄貴のように語りかけてくる文体が印象的です。

帯の目次
※帯より引用

「焚き火の本」は全五章から成っています。第一章は「概念&知識」。

むむ、なんだか難しそうだぞと身構えることなかれ。

焚き火には場を成立させる力がある」(22ページ)という一文から始まり、焚き火の多種多様なスタイルや、初心者が焚き火に臨む心構えを説いていきます。いきなり実用的な情報に入るのではなく「焚き火の楽しさや深さ」を語ることで「焚き火ってなんだかおもしろそうだな」というワクワク感をかき立ててくれるので、スッと焚き火の世界に入っていけます。

道具イラスト
※表紙より引用

続く第二章「装備&準備」からは実践編。

これだけは持っておきたい道具」(42,43ページ)、「あったらベターな道具」(44,45ページ)など、初心者なら知っておくべきポイントはもちろん、焚き火といえばマストアイテムともいえる「焚き火台」のバリエーションについても紹介してくれます。この章を読めば焚き火を始めるのに必要な道具についてしっかり理解できるでしょう。

薪
※表紙カバーそでより引用

薪の種類の説明(54,55ページ)や薪の作り方(割り方)など、「薪は出来合いを買うもの」という僕のような素人にはマニアックに映るような情報も書かれているので、焚き火の世界によりディープに分け入りたい人にも楽しめそうです。

着火イラスト
※表紙より引用

個人的にいちばん興味深く読んだのが第三章「着火&活用」でした。

薪と炭火で塊肉を焼くのに必要なので、僕自身は火を熾すのはそれなりに慣れているつもりです。

それでも、この本を読んでいろいろと勉強になる新情報を得ることができました。

最初の着火を新聞紙でやることに疑いを持たなかった僕にとって、牛乳パックは「ワックスコーティングされているので着火剤になる」ので「新聞紙より優秀」(78ページ)という情報は新鮮でした。早速試してみたくなってウズウズしてしまい、手元に余っていた牛乳パックをカットして丸めてしまったほど。

カットして丸めた牛乳パック

う~む、これが新聞紙よりも燃えるのか。春に試すのが楽しみだ。

そのほか、薪の組み方もさまざまなやり方が紹介されています。

薪の組み方
※帯より引用

火を大きくする手順」や「火を育てるコツ」など、いちばんの難所である着火についても丁寧に説明されています。

素人的に気になる「着火剤は邪道なの?」という疑問にも「火おこしを焚き火の通過点ととらえるなら、着火剤をガンガン使ったほうがスムーズ」(89ページ)ときっぱり答えている点にも好感が持てました。

僕の経験からいっても、この本どおりにやればけっこう簡単に着火できるのではないかと思います。この第三章だけでも、この本を買った価値があったなと思いました。

料理イラスト
※表紙より引用

続く第四章の「観察&活用」は料理を中心とした応用編ともいえる内容。基本的な調理道具は紹介されているものの、レシピなどの紹介は少なめ。やはり、真の焚き火好きにとって火は料理の手段ではなく、それ自体が目的なのでしょうね。

熾火
※表紙カバーそでより引用

最終の第五章は絶対に外せない「消火&片付け」。ある意味、もっとも大事な情報ですが、基本的な手順やコツに加えて焚き火臭の付いた洋服の洗い方なども書かれていて参考になると思います。

焚き火の本書影

こうして読み終えてみると、この本は焚き火に必要な最低限の情報を提示しながらも「これが焚き火の正しいかたちだ」というような一本道を押し付けてくることはなく、むしろ「こんなやり方もある、あんなやり方もある」と多様な選択肢を示してくれる点が心地よく感じました。

思えば、ひとことで「焚き火」といっても、小学校の林間学校で体験したキャンプファイヤー、おっちゃんが現場でタバコを吸いながらつつくドラム缶、近年流行りの焚き火台など、形はさまざまでそのどれかが正解だなんてわけがありません。

肉を焚き火で焼く

その意味では、肉を焼くために火を熾してきた僕もすでに焚き火を楽しんでいると言えるのかもしれません。

猪野氏はこう書いています。

読み終えるころには、いますぐにでも家を飛び出し、炎の前に座りたい気持ちになるだろう。ゆれる炎をうっとりと眺めながら、自分だけの焚き火時間を楽しんでほしい」(14ページ)

まさに氏の言う通りの読後感でした。今年は肉を焼くだけではなく、焚き火そのものを楽しんでみようかと思います。

アサクラ

大家業。世田谷のマンションと東京西部の山奥にある小屋を管理&経営。 『日刊Sumai』(扶桑社)で「なんでも大家日記@世田谷」を連載中。 https://s...

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