(364)三冊の書籍で「海のインテリア」について考える
前回に引き続き、今回も書籍の紹介です。
熱海の築古リゾートマンションをどんなインテリアにリフォームするか、ヒントを探るために参考書籍を読んでみました。
左から『海辺のリノベ』『カリフォルニアスタイル』『THE BEACH INTERIOR』の三冊。
それぞれ切り口やテイストが異なりますが「海のインテリア」という共通点があります。
インテリア雑誌をめくっていると「北欧」とか「和モダン」とか「フレンチシャビ―」とか「インダストリアル」とか、さまざまなスタイルが紹介されていますが、「海を感じさせるインテリア」もひとつのジャンルとして確立されています。
個人的にはサーフィンなどのマリンスポーツとも無縁な人生ですし、海を感じさせる部屋に住みたいと思ったことはまったくないので「ふ~ん」ってな感じで眺めてきたのですが、いざ海沿いの物件を手がけるとなると具体的な事例を踏まえておきたいという気持ちになったのでした。
■『カリフォルニアスタイル』
まずはムック『カリフォルニアスタイル』(枻出版、2014年)からご紹介しましょう。
当時、版元のエイ出版(2021年に倒産)は「NALU」や「surftrip」といったサーフィン雑誌を出版していて、その流れの中で「カリフォルニアスタイル」という雑誌も発行していました。このムックはその雑誌のエッセンスをまとめた「カリフォルニアスタイル」総集編ともいえる内容です。
「カリフォルニアの住宅と生活図鑑」というキャッチのとおり、冒頭の70ページにわたる「カリフォルニアリビング」ではサーファーやアーティストの自宅が紹介されています。
僕はよく知らなかったのですが、カリフォルニアのスタイルの軸は「ミッドセンチュリー」なんだそうで。このムックではイームズなどに関する基礎知識もコンパクトに簡単にまとめられているので勉強になりますが、「ミッドセンチュリー」のインテリアの具体例が見られるのはいいですね。
写真はサーフブランドでメディアディレクターを務めているというトッド・サンダース氏のお宅ですが、よく見るとボードを抱えた氏の背後にラウンジチェアがチラ見えしているのがわかります。イームズの手がけたデザインの中でももっとも有名なチェアのひとつで、これはさすがの僕も知っていました。「Yahoo!ショッピング」の画像をお借りしてみたのでどうぞ。
このような名作の家具がいい意味で目立ちすぎず、他のディテールと上手に調和しているのはさすが本場といった感じです。
名作家具もそうでないものも含め、カリフォルニアのおしゃれピープルがどんなインテリアを実践しているのかを垣間見れるのがこの本の醍醐味と言えましょう。
ちなみに、本場のインテリア紹介のあとには、当時、エイ出版が傘下に抱えていた「カリフォルニア工務店」の施工事例をまとめた「宣伝ページ」的な内容が続きます。
意外だったのは、冒頭で紹介されていた本場の住宅と「カリフォルニア工務店」の手がけた住宅があまり似ていないことで、室内にレンガを多用したりブルーのアクセントを入れたりしたからといって「カリフォルニアスタイル」になるわけではないんだな、と感じた次第です。
このあたりのちがいも含めて確かめてみると面白い本です。
■『THE BEACH INTERIOR(ビーチインテリア)』
続いてご紹介するのは『THE BEACH INTERIOR』(ネコ・パブリッシング、2020年)です。
こちらのムックは“大人の女性のためのビーチライフスタイル・マガジン”を謳うライフスタイル情報誌「HONEY」から編集されたもの。先ほどの「カリフォルニアスタイル」が、どちらかといえばクルマや家具好きの男性向けの構成になっていたのとは対照的です。
オフィシャルページで「HONEYが理想として掲げる女性がモデルの長谷川潤」と紹介されているのも見ても、ターゲットは美容や環境に意識の高い大人の女性であることは一目瞭然。当然ながら、僕の人生とは1ミリも接点はなさそうですが、ことインテリアに絞って特集したムックの中身は十分楽しめました。
巻頭の2つの特集ではハワイやカリフォルニアなどのさまざまなビーチハウスが紹介されていますが、家具選びやレイアウトからグリーンや雑貨の飾り方まで、インテリア好きなら参考にできそうな実例が多数掲載されています。
ビーチハウスと括りながらも「いかにも海」といったベタな感じはなく個性的な海外住宅の実例集として眺められるのもいいと思いました。
思えば、「海のインテリア」というと、「マリンブルー」をアクセントカラーに取り入れるとか、「サーフボード」や「貝殻」などの海をモチーフにした雑貨を飾るとか、どうもステレオタイプ的な「海っぽさ」がこれ見よがしに強調されがちなんですよね。
でも、このムックを読むと、そういう要素はあくまでひとつのパーツでしかなく、むしろ、その人の個性が中心になっているインテリアが多いのが印象に残りました。
なお、このムックでも「日本で見つけた素敵な部屋」と題して鎌倉や沖縄の実例を紹介しています。海外の実例にも劣らないハイクオリティなお宅が多いのですが、どれも一見しただけで相当な予算がかけられているのがわかり、正直、僕のように格安のリゾートマンションを購入するケースとは「クラスがちがうな」という感じはしました。
インテリアのアイデアを見つけるにはピッタリの良書だと思います。
■石原左知子著『海辺のリノベ』
最後にご紹介するのはちょっと毛色のちがう『海辺のリノベ』(石原左知子著、KADOKAWA、2017年)です。
長年アパレルの世界で働いてきた著者が三浦半島の佐島のマンションを購入し、90平米のメゾネット空間をフルリノベーションして造り上げた部屋を紹介する本。先の二冊がさまざまな例を網羅的にならべるものであったのに対し、こちらはひとりの施主のこだわりが詰まった住宅を紹介しています。
「元は和室もあるような、よくありがちな間取り」(65ページ)だったマンションをスケルトンにして、ユニットバスの代わりにタイル張りのお風呂を設け、室内にはフレンチテラコッタを敷き詰め、まるで南欧のような雰囲気が漂う空間に仕上がっています。
壁を朱色に塗り、ベルギーの籐椅子とトルコのラグを配した「カフェコーナー」や、フランスの古いアトリエテーブルを配したダイニングなど、著者のヨーロッパ好きがうかがえます。
個人的に好みのタイプのインテリアではないのですが、自分の「好き」にこだわってリノベーションする姿勢には好感が持てました。
石原氏はこの本を出版した時点で65才を過ぎていたそうですが、海のそばに家を構える人だって老若男女さまざまなわけですから人の数だけ「海のインテリア」があると考えてもいいのかもしれません。
■「海のインテリア」にはこだわらない?
以前も書いたとおり、熱海の部屋は世田谷のマンションの入居者さんを招待するためのゲストハウスでもあります。
その点を考慮して、世の中の最大公約数が望む「海のインテリア」を作ったほうがいいのではないかと思ったりもして参考文献を読んでみたのですが、実例に触れてみるとむしろ先入観にとらわれないほうがいいのだと思えてきました。
滞在に不自由を感じないていどに設備に手を入れさえすればインテリアのテイストはもっと自由でいいのではないか、と。
窓をのぞけばそこからは大きな海が広がっているのですから、それ以上に「海のインテリア」を演出する必要なんてないのかもしれません。
そんなわけで、三者三様どれも楽しく読めましたが、結果的には「海のインテリアであることは意識しすぎないで、自分の好きなように部屋を作ればいい」という結論に落ち着いたのでした。
次回は、リフォームの具体的な方向性を検討します。