(451) 「Pen」と「田舎暮らし」~別荘の理想と現実を考える
今回も引き続き別荘の話。
「Pen」と「田舎暮らし」の2冊をご紹介したいと思います。
「Pen」の特集は「セカンドハウス、二拠点、移住、新しい働き方 理想の暮らしは、ここにある」。
「田舎暮らし」の特集は「300万円以下のセカンドハウス 二拠点居住、週末田舎暮らし、リモートワーク、釣りや山歩きの拠点にも!」。
ともにいわゆる「別荘」について特集していますがその内容は大きく異なります。この2冊を読みくらべながら別荘の理想と現実について考えてみたいと思います。
■「Pen」に見る「雲上人が語る理想の別荘」
まずは「Pen」からまいりましょう。
「White Mountaineering」を主宰する相澤陽介氏が軽井沢に所有する別荘(と最近プロデュースした「Not A Hotel」)をはじめ、建築家や会社社長、元博報堂のコピーライターらのセカンドハウスが次々と紹介されます。どれもこだわりがあっておしゃれで、見ているだけでうっとりします。
別荘ではなく、多拠点生活の在り方に力点が置かれた事例紹介もあるのですが、こちらもみなさんが個性的で華麗なキャリアをお持ちの方ばかり。
「別荘に興味があるんだけど…」くらいの気持ちで手に取るとハイエンドな内容にたじろぐはずです。僕自身、読み終えてあらためて表紙を眺め、タイトルが腑に落ちました。
なるほど、「理想」というからには現実的であってはなりませんし、庶民には手の届かないものを見せてこそ理想を名乗ることが許されるというわけなのです。
もう少し実践的な情報がほしいと思われる方には「Pen」のバックナンバーのほうをおすすめします。
こちらは21年の別荘特集号。
先の最新号とくらべるとバラエティに富んでいて現実的な内容でした。
「あなたはどっち派? 地方移住/多拠点暮らし 適正チェック」(44,45ページ)は、「体力に自信がある」「どこででも寝られる」などの質問に「そう思わない=0点/どちらかといえばそう思う=1点/まあまあそう思う=2点」「とてもそう思う=3点」の形で回答し、地方移住と多拠点暮らしの適性を診断するというコンテンツですが、トライしてみたら地方移住はおろか、多拠点暮らしへの適性も最低だったので印象に残っています。
そのほか、「どこで暮らし、どう通うか、妄想移住案内」(55ページ~)と題して、東京から日本各地へのアクセスをまとめ、一週間のスケジュールを想像(妄想)してみるという企画も面白かったです。軽井沢や木更津からの通勤はともかく、石垣島と東京を月に2往復するライフスタイルなどは、自分のようにフットワークの軽くない人間的には軽い驚きでしたが、極端な事例を見たあとだと近場での二拠点生活に対する心理的なハードルもぐっと下がるのかも、なんて思って楽しく読みました。
事例紹介は最新号と同じくハイエンドな別荘が中心ではあるのですが、中には「東京都世田谷区→東京都檜原村」という僕にとって親近感の湧く移住例も紹介されていましたし、以前このブログでも紹介した「SANU」をはじめとする「タイプ別、サブスク住居4選」(66ページ~)や「ウチの会社に導入を薦めたい!法人契約向けワーケーション」(86ページ~)など、多拠点生活の入口となりそうなサービスの紹介もあって勉強になりました。
最新号では「これから移住したい、セカンドハウスを検討したい」という人にとってのガイド的なコンテンツは掲載されておらず、ハイエンドな事例紹介に終始していたのを考えると少々残念ですが、「セカンドハウス」といって期待されるのはこういう「理想的な」内容なのかもしれません。
■「田舎暮らし」に見る「手が届く現実的な別荘」
他方、前回と前々回とご紹介したとおり、今や別荘は物件の状態にこだわらなければ150万円や200万円で購入することができる時代です。
先ほどの「Pen」とほぼ同じころに発売した「田舎暮らし」の「300万円以下のセカンドハウス」特集を読んでみましょう。
表紙に掲載されているのは山口県光市にある300万円の物件。9DKで延床面積159平米(!)という日本家屋です。向かって右の母屋は明治時代に建てられたそうで和室には堂々たる雰囲気が漂います。
「田舎暮らし」の物件リポートのいいところは、単に物件情報や価格だけではなく、実際に住むにはどこを直していくらかかるかを明示してくれている点でしょう。
「母屋の屋根は過去に葺き替え済みで問題ありません」(19ページ)といったコメントとともに「給水配管、給湯設備…50万円~70万円」や「洋室の床…10万円」といった改修にかかる費用の概算(18ページ)が示されています。
300万円で買っても、そのあといくらかかるかわからなきゃどうしようもないというのが移住やセカンドハウス選びのポイントなので、これはありがたいと思います。
ただ、300万円で購入して100万円で直したところで、それは雨風をしのいでふつうの生活ができるというスタートラインに過ぎないのも事実です。
「Pen」で紹介されたようなハイエンドな別荘は望むべくもないとしても、ボロボロのままの室内で過ごすのは寂しい気持ちがします。限られた予算のなかでもなんとか工夫をこらして非日常を楽しめるような空間を作りたいというのが人情というものでしょう。
では、古い物件を購入してどんな暮らしができるのでしょうか?同じ特集内に参考になりそうな事例が掲載されていました。
東京の下町に家を持ちながら、茨城県の大子町にセカンドハウスを購入し、リノベーションしたケースです。古い平屋の天井を抜き、柱を露出させて広々した空間を作り、日本家屋ならではの木の雰囲気を活かしながら、モダンに生まれ変わらせています。
この物件の持ち主さんは「都内の不動産ベンチャーに勤務した後独立して起業、一級建築士としてリノベーションのコンサルティングを行っている」(12ページ)とのことでガチのプロの方でした。どうりで完成度が高いわけだ……。
「セカンドハウスでの過ごし方 ある日のスケジュール」(13ページ)といった具体例もあって興味深くはありますが、どんなふうにリノベーションしていくらかったかについては残念ながら掲載されていません。
格安で売りに出されている物件をいくらかけてどんなふうに生まれ変わらせればいいか、そのへんの具体的な情報はもっと語られていいと思います。
■別荘と理想と現実のはざまで
手前味噌ではあるのですが、僕のブログではそのあたりの情報をフォローできればという思いで日々記事を書いています。
思えば、昨年購入した熱海のリゾートマンションもおよそ300万円でした。
内見したときは、室内も半ば解体されて床も一部色が塗られていたりして、とても人が住んでいたとは思えませんでした。不動産屋さんは「こんな状態だから安い」と言ってましたが、見方によっては廃墟のようにも見える室内でした。
ここから業者さんの手も借りながらDIYで室内をリフォーム。
躯体あらわしだった壁を活かしつつ、まったく新しい部屋に生まれ変わりました。
せっかくの眺望を活かすために窓の交換などもおこなったので、最終的には物件価格と同じくらいの費用がかかってしまいましたが、別荘ならではの非日常を感じさせる内装に仕上がったので満足しています。
一方、こちらは僕が祖父から引き継いだ山の家の隣に立つ離れ小屋。
立地は駅から離れた山奥ですし、たった六畳ほどの広さで電気しか引かれていない建物ですから、物件としての価値はほとんどないと思います。
こちらもリニューアルして見違えるようにきれいになりました。
内装のDIYに加え、屋根を補修して外壁を塗り直し、ガスと水道を引いたこともあって500万円ほどかかってしまいましたが、これまた非日常感が漂うウィークエンドハウスができました。
現実的に手が届く別荘をそこそこの手間とお金をかけてブラッシュアップすることで、ささやかな理想の別荘を生み出す……それが自分なりの方法論なのだと感じるようになりました。セカンドハウスを具体的に検討する一助になればうれしいです。