(485)マンションの漏水トラブル、発生から解決までの流れをまとめる
前回、「日刊Sumai」の再録記事で、漏水トラブル発生時に入居者さんとの交渉に苦戦したエピソードをごらんいただきました。
築古のマンションに暮らしていれば、けっこうな確率で漏水トラブルに遭遇してしまうことがあるはずです。
今回は、これまでの僕の経験を振り返って漏水トラブルが発生した際にどんなふうに対応してきたかをまとめてみます。
■まずは現場に駆け付けて状況を写真に収める
さて、ひとことで漏水といっても、それがどのていどの規模で起こるかはケースバイケースです。
先日ご紹介した部屋では、8年の間に天井から水が漏れるトラブルが二回も発生しましたが、一回目と二回目とでは規模がまったく異なりました。
一回目は床までびしょ濡れになるほどの多量な漏水でしたが、二回目はポタポタと水が落ちてくるていどの微量な漏水でした。
漏水の深刻さ次第で復旧へのスピード感は変わってくるとは思いますが、どちらにせよ、僕のような立場の人間=管理人はなるべく迅速に現場に急行するのが大事です。マンションの管理人が水道について専門的な知識を持っているわけではないですから、実際にできることは多くはありません。でも、トラブルの重要性を認識して現場に駆けつけてくれたというだけで入居者さんの安心感がちがうのはまちがいないでしょう。
現場でやらねばならないことは写真の撮影です。
後日、水道屋さんが現場を見るときは、掃除が済んで漏れた水が乾いたあとになります。天井や壁などをよく見てどこが濡れているかを写真に残しておけば、現場で水道屋さんと話す際に便利です。
のちのちの保険請求などに備えて被害にあった物を中心に写真を撮影しておくことも忘れずに。
さて、水は高いところから低いほうに流れるものですから、原因は上階にある可能性が高いといえます。よほど非常識な時間帯でなければ、上の階で水栓の閉め忘れなどがないかを確認したいところですが、それには上階にお住まいの方への連絡が不可欠です。ここでなかなか連絡がつかないと大家としてはジリジリしてしまいます。
ちなみに、事態がよほど深刻でないかぎりは、管理人であろうと(マンションのオーナーであろうと)他人様の部屋に勝手に入って状況を確認することはできません。
どのていどなら「深刻な漏水トラブル」と言えるかというと「マンション全体の保全に関わる緊急事態」と見なせるかどうかが判断基準になります。天井から水がドバドバと流れ落ち、しかも止まる気配がないような場合なら、さらに下の階やマンションの構造自体にも影響を与えかねないですから該当するでしょう。幸い、僕はそこまでのトラブルに遭ったことはありません。
■漏水の原因の特定はけっこう難しい
続いては漏水の原因を特定しなければなりません。水道屋さんに連絡を取ってなるべく早く現場を見てもらいます。
うちのようにしょっちゅうリフォーム工事をおこなっていると、お世話になっている建設会社経由でお願いしてなじみの水道屋さんが来てくれます。水道屋さんのツテがなくても、過去にリフォーム工事などをおこなったことがある場合、その業者さん経由で水道屋さんを呼んでもらうのが安心でしょう。なお、ネットやチラシで安易に業者を選ぶとぼったくりに遭うリスクがあるので、行政の指定業者を選ぶのが無難かもしれません。
水道屋さんが現場に来てくれたからといって安心できないのが漏水トラブルの大変なところ。たとえプロといえど、現場を見てすぐに原因を突き止められるとは限りません。というか、漏水は天井裏や上階の床下などの隠れた場所で起こるので、漏水個所を特定するのがかなり難しいのです。
まずは比較的かんたんに原因がわかったケースから。
天井裏を通る配管の継ぎ目から水が漏れていました。矢印の個所から漏れた水のせいで下の木材が濡れてカビているのが見て取れます。このときはユニットバスの天井にある穴からのぞいてすぐに原因を特定できましたが、天井裏をのぞく手段がない場合もあります。
そのときはまず写真のような点検口を設置してもらうところから始めねばなりませんでした。
ここから天井裏をのぞきこむと排水管のフタに小さな穴があるとわかり、原因が判明しました。
しかし、プロが天井裏をのぞいてもどこから水が漏れたのかわからないこともあります。
この場合、上階の入居者さんの許可を取って室内に入らせてもらい、浴室の防水が劣化しているのを発見し、ここが怪しいと目星をつけました。
業者さんから「ここからピンポイントで水を流してみて、もう一度下に漏れ出れば、間違いないです」と言われ、動揺しつつも水を流してみたところ、推測どおり水が出たので漏水箇所が特定できました。この方法を試すためには上階・下階の両室の許可を得ることが必要となるので、入居者さんの協力が不可欠と言えましょう。
業者さんから聞いた話ですが、いくら調べても原因がわからないという場合もあるそうです。マンションの内部は複雑な構造になっているので、漏水が出た天井の真上に原因があるとはかぎらず、斜め上の部屋の床下から構造部を伝って漏水したとか、外壁に一部劣化した箇所があってそこから水が入ってきていたとか、さまざまな原因がありえるのです。もし原因がわからないと、もう二度と起こらないことを祈りながら暮らし続けるしかないのかもしれません。
思えば、僕も漏水トラブル発生から補修工事までの間は「また水が漏れてくるのではないか」と心配で眠りも浅い日々でした。これがずっと続くなんて大家としては悪夢にも等しい話です。
■漏水に伴う汚れや設備の故障も復旧する必要がある
原因がわかったら次は修理ですが、そのための調整や交渉で思わぬ苦労を強いられることもあるのは前回書いたとおりです。たとえ入居者さんが協力的でも、業者さんと日程をすりあわせるのはなかなか大変なので、なるべくスピーディーに工事日をセッティングできるかは大家の調整能力の見せどころでしょう。
日程さえ決まれば、あとは水道屋さんに作業してもらうだけ。
水道管に穴が開いていたのなら部品を新しく交換し、
防水が劣化していたのなら防水を塗り直して補修します。
こうして漏水の原因を補修すれば大家としてはひとまず安心なのですが、まだ終わったともいえません。
漏水トラブルの場合、大抵は漏れた水によって設備が破損したり、壁や床が汚れたりしていますから、これらを復旧する作業が必要なのです。
漏水のせいで波打ってしまったクッションフロアです。この場合、床材を取り替えねばなりませんでした。
天井からの漏水では照明が壊れてしまうこともあります。
電気屋さんにお願いして、故障したダウンライト(左)を新しいダウンライト(右)に交換しました。
漏水のせいで壁が膨張してできた裂け目です。これを埋めて塗り直すのは塗装屋さんの出番。
塗装が済んできれいになりました。
水道管の破損や防水の劣化については一刻も早く対応するスピード感が求められるのですが、壁の汚れなどは生活に致命的な影響を与えるわけではないので、入居者さんの理解が得られれば余裕を持って対応することができます。
■で、復旧工事にかかったお金は?
最後にお金の話も。
以上のように復旧工事は多岐にわたるので被害内容によって工事にかかる費用もけっこう異なります。参考までにうちのマンションの工事代金を3例ご紹介しましょう。
【上階の防水劣化による漏水のケース】
・68,000円:漏水元の部屋の浴室の防水補修工事
・77,760円:漏水被害のあった部屋の塗装+ダウンライトの交換
【天井裏の排水管に穴が開いたケース】
・45,360円:排水管の修理+点検口の設置+ダウンライトの交換
【天井裏の排水管の継ぎ目から水が漏れたケース】
・87,000円:排水管の修理+壁の塗装+床の張り替え
工事代金は個別の物件の事情次第で異なるものなので一概には言えませんが、大雑把な予算感だけでも参考にしていただければ幸いです。
漏水トラブルといえば保険金も思い浮かびますが、うちのマンションのように築50年を越えていると、漏水トラブルの原因は大抵「経年劣化による破損」なので、まず保険はおりません。
しかし、新しい設備で「偶発的・突発的に漏水が発生した場合」ならば保険が適用されます。大家視点でいうと、マンションの設備の修理などは「火災保険」で、店子が所有する家具などの被害は「賠償責任保険」でまかなうことができるかもしれません。このあたりについてはよくリサーチしたうえで保険会社に相談してみることをすすめます。
そんなわけで、築古大家としては漏水が起こらないことを日々祈りながら暮らすのでした。