(534)【バーベキュー①】鶏・豚・牛を塊で(真剣に)焼く
コロナ禍のブームにのせられて焚き火を始めたニワカの僕ですが、肉を焼くために火を熾すことだけは別。
かれこれ15年ほど前から山小屋の前の空き地でせっせと薪と炭で塊肉を焼いてきました。
しかし、それは巷でいうバーベキューとはかけはなれた行為であります。
ピラピラ肉とカット野菜。僕も学生時代はこんなバーベキューに勤しんでいたわけではありますが、振り返ってみてもこのイベントはあくまで社交の場であり、肉を食べることを楽しむという行為ではありませんでした。記憶をたどってみたところで美味しかったなどという思いは微塵もなく。
しかし、薪や炭というのものは肉の外側を香ばしく焼きつつ内側をしっとりジューシーに仕上げることのできる素晴らしい調理ツールであり、フライパンでは焼くのがかなり難しい厚切り肉や塊肉を驚くほど美味しく焼き上げることができるのです。
今から15年ほど前にその事実を知って衝撃を受けて以来、僕は社交バーベキューから遠ざかり、もっぱら少人数の「真剣に肉を楽しむバーベキュー」ばかりをおこなうようになりました。
牛肉をどう焼くかについてはだいぶ前に3回(①②③)にわたって書きましたが、今回と次回はその他のお肉を中心にバーベキューでどんな肉をどうやって焼くかを考えてみたいと思います。
■まずは基本のプロセスを牛肉でおさらい
火を熾すプロセスまでも楽しむ焚き火とは異なり、バーベキューにおける火はあくまで手段。インスタントに火を熾し、すぐに調理に入ることができるのが大事です。
そのためにも着火剤は必須。
キャンプ場近くならコンビニやスーパーでも手に入る定番着火剤「文化たきつけ」です。
以前ご紹介した猪野正哉さんの著書にも書かれていますが、「火おこしを焚き火の通過点ととらえるなら、着火剤をガンガン使ったほうがスムーズ」(『焚き火の本』猪野正哉著、山と渓谷社、89ページ)なので特別なこだわりがないならばぜひ活用しましょう。
僕のやり方では、火が入るのに時間のかかる木炭を下に敷き、その上に着火剤を置き、丸めた牛乳パックを散りばめてから、割りばし、細い薪、太い薪をピラミッド状に重ねていきます。
いわゆるチャッカマンで着火剤に火を付け、燃えやすいものから燃えにくいものへと順番に移して大きくしていくことでスムースな火熾しができるのです。
正直、この方法で火を熾すようになって以来、ものの数秒で火がつくようになったので苦労した記憶がありません。
しかし、この段階ではまだ炭には火がついておらず、薪だけが燃えている状態です。人によっては火が落ち着き炭から熱が出ている状態まで持って行ってからゆっくり肉を焼くべきと考えるでしょうが、まず薪で上がる強い炎で肉の外側をカリッと焼き上げるのが僕の好み。
焼くのは和牛のリブロースやサーロインです。「そんなの見たことない」と言われるくらいの厚みで焼くとギャラリーも盛り上がります。
まわりに焦げがつくくらいまで焼けてきたら、網の上で火が当たりにくい場所に移したり、薪を崩して火を弱めたりします。このころには炭にも火が付き始めているはずなので、遠赤外線でじっくり時間をかけて中まで火を通していきます。
時折、肉の表面をトングで押し、生肉特有のブヨブヨ感がなくなり、焼いた肉の弾力が感じられてきたら焼き上がり。
ホイルで包んで肉を休ませて、肉汁を閉じ込めるのがセオリー。
外はカリッとスモーキー、中はジューシーなステーキの完成です。塩と胡椒を振りかけて食べれば、至福の味わいが待っています。
とまあ、和牛を焼く場合はこんな感じですが、薪&炭火なら牛以外の肉だってとっても美味しく焼けます。
■皮と身のコントラストが素晴らしい鶏モモ肉
フライパンで焼こうとすると難しい鶏モモ肉も、薪と炭なら簡単にお店のような味に焼き上げることができます。
一枚まるまるをどんと網の上にオン。
これくらいではまだまだ。
ところどころ焦げるくらいまで薪で焼き付け、
先ほどと同じく火力を抑えめにコントロールして中までじっくり火を通します。
鶏肉は焼きすぎるとすぐ固くなる印象がありますが、それはフライパン調理の話で、炭火ならば多少焼きすぎてもパサパサになることはまずありません。
ちなみに、鶏肉はじっくり焼けば休ませることなく、火からおろしたらすぐにカットでOK。
皮はパリパリ、中はみずみずしい焼き上がり。「これだけ食べ続けたい」というゲストがいるくらい美味しいです。しかも、鶏モモ肉はリーズナブルなので予算に限りのあるバーベキューにもおすすめです。スパイスなんかで味付けするのも面白いですね。
■豚肉にゴールデン・マスタードを添えて
コストパフォーマンスで鶏と双璧をなすのは豚肉。
写真左の塊肉が豚肩ロースのブロックで、およそ600グラムほどでしょうか。家庭のキッチンではまず焼けない厚さです。
焼き方は変わりません。薪で外側に焼き色をしっかりと付け、弱火でじっくり火を通しました。
外は焦げかけているのに中はほんのりピンク色なくらいジューシーな焼き上がりで、脂身は甘く、赤身部分はしっとり。
おすすめはちょっぴり贅沢なマスタードを添える食べ方。
「ゴールデン・マスタード」です。肉好きの友人からお土産にもらって知りました。
いわゆる粒マスタードとは異なり、マスタードの粒そのものを味わうような穏やかな風味が特徴で、肉の旨味を邪魔せずに引き立ててくれる素晴らしい薬味です。
まあ、お高いはお高いのですが、晴れの日使いならアリだと思います。
ちなみに、塊で豚肉を焼くと、ついつい外の焦げ目にあせりを感じて、中身が生焼けの状態でカットしてしまうこともあります。そんな失敗に備えて、最初にカットするときは真ん中を切るのをおすすめします。
もし切ったときにまだ生焼けだったら、その面を下にして焼き直せばいいのです。もともと大きい塊肉ですから半分にしたところで焼き上がりに大きな影響が出てしまうこともないですからね。
まだまだ肉焼きの話は続きます。次回はラム肉やローストビーフ丼の話。