(547)コンパクトマンションの暮らしを考えるブックガイド4冊
今回はコンパクトマンションでの暮らしを考えるブックガイドと題して4冊の本を紹介したいと思います。
「ザ・コンパクトマンション」とも言うべき我が家は、コロナ禍に「おうち時間の充実」を口実に要るのか要らないのかわからないものまでいろいろと買ってしまったせいか、余計なものがあふれかえってしまい、もはや収拾がつかないほど散らかってしまっています。
ワークスペースの取材に答えたころのリビングはこんなにすっきりしてたし、
キッチンだってけっこうきれいだったのに……今の姿はとても見せられません。
なんとか部屋を片付けるためのモチベーションとヒントがほしいという思いもあっていろいろ読んでみたのが今回ご紹介する本の数々というわけ。
ちなみに、うちのマンションは僕の部屋も含めて一部屋あたりの広さはすべて30平米。いわゆるシングル向けのワンルームとしては広めですが、カップルで暮らすとなると狭く感じるという「コンパクトな」面積です。
ご紹介するうちの1冊(「リライフプラス」45号)によると、明確な定義はないとしたうえで「コンパクトマンションとは専有面積30~50㎡程度、ファミリーで住むには少し狭い物件を指します」(70ページ)と説明されています。
たしかに、うちのマンションからお引越ししていくもっとも多い理由が「子どもが生まれた(もしくは大きくなってきた)ので手狭になった」ですから、この定義にはうなずけます。
ひとりにせよ、カップルにせよ、子持ちのファミリーにせよ、コンパクトな部屋に暮らすには狭い空間をいかに上手に住みこなすかがカギになるのはまちがいありません。
前置きが長くなりましたが、そのヒントを探しながら4冊の本をご紹介していきましょう。
■「リライフプラス コンパクトマンションを劇的に住みやすくするリノベ」
最初にご紹介するのが冒頭の定義を引用させていただいたこちら。
扶桑社「住まいの設計」の別冊「リライフプラス」の45号(2022年)です。
特集は「コンパクトマンションを劇的に住みやすくするリノベ」で、「間取りや収納の工夫で、実際の面積以上に広々と感じられる住まいを手に入れた8件」(37ページ)の事例が取り上げられています。
中心となるのは40~50平米ほどの広さで、もっとも広い部屋でも「62平米」。中には32平米というかなり小さな部屋も紹介されています。
どの部屋にも限られた空間を有効活用するためのアイデアが盛り込まれていて「こんな手もあるのか」と感心させられました。
たとえば、「ケース3」の39平米のお部屋の寝室。「仕切らずにベッドコーナーに」(48ページ)という発想はよくありますが、注目すべきは天井に設けられた収納です。「キッチンのダクトカバーを兼ねた格子状の吊り棚を造り付け」(48ページ)ているのですが、これがただの収納ではなくインテリアとしてしっかり効いているのです。ロフトのようにすると圧迫感が出てしまうところを、格子にすることでスリットが天井を軽やかに見せ、視覚的にも面白い効果を生んでいます。チャンスがあれば真似してみたいアイデアです。
驚かされたのは「ケース4」の32平米のお部屋の浴室。32平米といえば、うちのマンションと大差ありませんから、水回りに割ける空間はかなり狭いことは容易に想像できてしまいます。「浴槽とシャワー室を兼用して省スペース」(53ページ)というキャッチを見ただけでは「???」と思ってしまいますが、どういうことかというと広めのシャワールームの床が全面浴槽になっているという驚きの構造。「洗い場はいらないけど、足を伸ばしてお風呂に入りたい」(53ページ)というお施主さんのリクエストから生まれたのだそうです。思えば、ヨーロッパのホテルとかいくとバスタブの上にシャワーが設置されているのをよく見かけますが、それと同じ発想ですね。あれはバスタブまわりがビショビショになるのでどうかと感じていましたが、バスタブごとクローズドな空間にしてしまうならアリかも、と思わせてくれます。
などなど、文字で説明してもなかなかイメージが湧きづらいと思いますので、ぜひ手に取ってごらんになってみてください。
■加藤郷子『あえて選んだせまい家』
続いては、
加藤郷子著『あえて選んだせまい家』(ワニブックス、2016年)です。
下は30平米から上は59平米までの8つの事例を取り上げ、住人へのインタビューを通じて「せまい家」での暮らし方のさまざまなあり方を紹介しています。
個人的に気になってしまうのが我が家と同じサイズの30平米のお部屋で、しかも夫婦二人暮らしというのですから「さぞ狭いことだろう」と思ってしまいました。
いや、読んでみると実際に狭いのですが、その狭さを「生活の実験」(62ページ)として楽しむメンタリティが見事です。
たとえば、ついついため込みがちな日用品も、都心に住んでいるのだからスーパーやコンビニにストックがあると考えれば買いためる必要はないと割り切り、「家の中のストックは最小限でOK」(66ページ)と思って暮らしているんだそう。しかも、持っているものまでミニサイズを使っているのですから、筋金入り。めっちゃ小さいオリーブオイルとか誰が買うんだろうと思っていたけど、こういう考え方があるのですね。
せまい家に住むことは自分の生活観や住宅観に真正面から向き合って問い直すことなんだと感じました。すごい。
一方、52平米で3人暮らしをしているケースでは、「好みのインテリアを実現するためのリノベーションや、将来的にも価値が下がらないと感じた人気の立地や物件であることを優先し、広さをあきらめるという選択をした」(84ページ)といいます。
大抵の場合、工事に割ける予算というものは決まっているので、広い部屋を狭い部屋のほうが平米あたりにかけられるリフォーム費用が増えることになります。
こちらのお宅では広さを犠牲にして、無垢材をヘリンボーン張りした床や、サブウェイタイルを全面に張ったキッチンなど、ぜいたくなインテリアを手に入れようと考えたのです。
これは僕も納得がいったところで、うちの山小屋もたった六畳の広さだからこそ世田谷のマンションよりも高額な床材を用いることができたのを思い出しました。
予算に限りはあるけれど、リフォームで選ぶ素材には妥協したくないと考えている方にとっては、コンパクトな部屋を選ぶことで予算を抑えて理想を実現できるかもしれないというのは大事なヒントだと思います。
なお、8つの事例の最後には、取材をおこなった著者本人の自宅も紹介されているのが興味深いです。47平米と決して広い家ではありませんが、僕はテレビの前にあのベアチェアが置かれているのを見逃しませんでした。
以前、北欧家具の専門店であるサボファニチャーで実物を拝見させていただき、座らせていただいたこともありますが、とにかく幅も高さもあるサイズの大きなチェア。日本の住宅だとドアを通らず搬入ができなくてあきらめる人も多いそうですが、47平米の家に置かれていて、(写真を見るかぎり)違和感なくなじんでいるのが本当に驚きです。
リフォーム当初、予算削減のために引き戸を取り付けずにワンルームにしたところ、「広々とした空間の便利さ、心地よさにすっかりはまりました」(183-184ページ)という著者。「ベッドとソファがくっついた形で置かれているので、寝室にソファがあるかのように使えます」(184ページ)という言葉を聞いて、なるほどいくら大きいベアチェアといえども、ベッドと同列に考えれば、大したことないかもしれないと腑に落ちました。ベアチェアなんて日本のふつうの家には絶対に置けないよなと思い込んでいましたが、存外そんなこともないのかもしれません。
■『北欧インテリア見本帖』
3冊目は以前もご紹介したこの本。
『北欧インテリア見本帖』(集英社、2017年)です。
雑誌『LEE』で定期的に特集された北欧各国の住まいとインテリアを再編集した書籍です。
この中の「パート2」(32~77ページ)は「37~70㎡まで。小さな家の大きな工夫」と題されていて、北欧の人々が狭小空間にどう暮らしているかが具体的に紹介されています。
「小さな収納家具を何個も置くより1カ所大きな収納を」(32ページ)とか「出しておくのはかわいいものだけ」(53ページ)とか、言葉だけ聞くとインテリア本によくあるアイデアでしかなくても、その見せ方が洗練されているのがこの本の特徴です。取り上げられている部屋の住人がデザイナーやイラストレーター、IKEAのスタッフなどの「玄人」なので、センスの良さにハッとさせられます。
ペールグリーンで塗られた寝室(35ページ)や花柄の壁紙を取り入れた寝室(43ページ)、大きめのスクエアタイルを張ったキッチン(45ページ)、柄や色にあふれながら散らかった印象を感じさせない子供部屋(55ページ)など、眺めているだけで楽しくなること請け合いです。
表紙に取り上げられているお部屋も52平米と決して広くはありませんが、ヴィンテージのチェストの上に植物や額などが絶妙なバランスで配されていてただならぬセンスを感じます。と思ったら、フィンランドのテキスタイルブランド「ヨハンナ・グリクセン」のスタッフの方でした。
この本を読むと「部屋がおしゃれじゃないのは狭いから」という言い訳をしづらくなるなあ。
■建築家二人暮らし『小さい部屋で心地よく』
最後となる4冊目は、若い建築家夫婦が45平米の部屋でどう暮らしているかをつづったこの本。
建築家二人暮らし『小さい部屋で心地よく』(エクスナレッジ、2021年)です。
著者のお二人はインテリアについてYouTubeで発信しており、この本もその内容を元にまとめられているようです。
さすが本職、インテリアのお手本のようにきれいな部屋です。
この写真を見て僕が最初に感じたのは解放感のある部屋だなあという印象でしたが、そのカギとなっているのが低めのソファ(やベッドなど)なのです。
ソファは僕もたまに訪れるインテリアショップ「MOMO natural」の「DAY SOFA」。
僕も店舗で見たときにいいなあと思ったもので、とにかく低くてシンプルなデザインが目を引きます。
著者によれば「ローバックタイプを選んだのは、季節や気分によって家具の位置を変えることもあるから」(26ページ)なんだとか。
ソファの位置を変えるどころか、ソファすら置けない我が家からするとうらやましいかぎりですが、それでもこの部屋の広さだってたった45平米ですから、これだけゆったりとした空間づくりができるのはムダなものをしっかりと見極めて手放しているからこそ。
たとえば、二人のお部屋にはテレビがありません。曰く、テレビを手放すと「縛りがなくなり、レイアウトや家具選びの自由度が上がります」(42ページ)とのこと。たしかに、何本ものコードでつながれた動かしがたい存在が室内に鎮座していることで、狭い部屋のレイアウトはかなり制限されてしまいます。本来なら暮らしのさまざまな要素から考えられるべきインテリアが、テレビという存在だけに大きく左右されてしまえば犠牲になるものも多いのだと思います。うちの入居者さんでもテレビを持っていない/手放したという方が増えており、個人的にはそういう方々のほうが素敵に暮らしているなと感じることが多いです。
そうは言っても、暮らしていくにはそれなりに物が必要なのも事実なわけで、収納の大事さも説かれています。「使うものは見えないところに置く。使わないものは、リビング・ダイニングに常駐させない」(121ページ)という2点をルールに、著者は「収納スペースを最大化」(122ページ)することを提案します。
その具体化が、玄関ホールに設けた「“高密度”の収納庫」(124ページ)です。天井ぎりぎりまでのスチールラックがならぶなかに、使用頻度を基準とした物たちが整然と収められています。
リビングの抜け感を支えているのは、この高密度な収納庫だったのですね。そして、「この収納庫に収まりきらないものを持つ」(127ページ)ことは避けようと心がけているのにも頭が下がります。
リビングの解放感と収納の高密度というメリハリ、不要なものを見極めて手放す姿勢こそが「小さい部屋で心地よく」暮らす秘訣と見ました。コンパクトマンションに暮らす人にぜひお読みいただきたい本です。
こんな具合に、コンパクトな部屋で快適に暮らすアイデアや工夫は多種多様なので、参考になるものを寄せ集めながら自分なりの快適さを考えていけるといいかな、と思っています。