(736)【前編】「UR まちとくらしのミュージアム」に行ってきた
今回から二回にわたって赤羽にある「UR まちとくらしのミュージアム」を見学してきた話をしたいと思います。
【公式ページ】UR まちとくらしのミュージアム
訪問のきっかけは、noteでこの記事を書いたこと。
代官山にあるタワーマンション「代官山アドレス」に建て替えられる前、かの地には「同潤会アパート」がありました。

タワーマンションについて常々否定的な感情を抱いてきた僕ですが、その前にあった建物と暮らしについて知ることなしに再開発について正当に評価することは難しいと考え、「UR まちとくらしのミュージアム」内に移築・再現された「同潤会アパート」を見に行ったのでした。

人生初の赤羽。同じ23区内とはいえ、東京縦断の移動はそれなりに時間がかかりました。
駅から5分ほど歩くと、広大な敷地に立ち並ぶ集合住宅が目に入ります。

URが手がける「ヌーヴェル赤羽台」です。今の団地ってこんなに立派なのか、と驚かされます。

「ヌーヴェル赤羽台」を横目に進むと、敷地内にレトロな建物が見えてきました。

「スターハウス」と呼ばれる古い団地がまるごと保存されています。その名のとおり放射状にデザインされた建物は、きちんとメンテナンスされているせいか、とても1950年代に建てられたとは思えません。正直、うちのマンションのほうが汚い……。

「スターハウス」の向かいの建物が「UR まちとくらしのミュージアム」。この中にかつてURが開発した団地から移築した建物が収められているというわけ。
一階で受付を済ませて見学会に参加します。入場無料ですが、人数制限のある予約制なので注意が必要。僕が訪れた日は平日にもかかわらず満員でしたので、見学を希望する方はスケジュールに余裕を持って予約するようにしましょう。
■1926年竣工「代官山アパート(同潤会アパート)」
最初にURに関する簡単なムービーを見たあと、いよいよ過去の建築物が保存されている上階に移動して見学が始まります。

あらかじめお断りしておきますが、館内を自由に歩き回ることはできません。
館内ガイドの職員さんが展示ごとに解説をしてくれたのち、決められた自由時間の間にのみ見学・撮影をおこなうことができます。いわゆるツアーガイド付き団体旅行のイメージです。
今回撮影した写真の数々はどれもその中で撮影したものなので、他の見学者の写り込みを避けるのがなかなか大変でした。

最初に訪れたのが同潤会アパートの中でも最大規模だった「代官山アパート」です。

竣工は1926年(昭和元年)ということは百年前で、昔の建物どころか、もはや歴史的建造物の領域ですね。

部屋の一画にはふすまで仕切られたコンパクトな台所がありました。

これはなかなか時代を感じさせますね。もちろん水道とガスは通っていますが、ガスコンロにしても流し台にしても、うちのような築古マンションに備え付けられていたものとくらべても、はっきり旧式だという印象を受けます。

トイレも当然和式。

タンクは天井近くにあり、便器横のチェーンを引っ張って流します。和式トイレは僕も祖父の家で使ったことがありますが、チェーンはなくレバー式だった記憶があります。

洗面は古いものの、一周まわって全然あり。木製のキャビネットなんて、今じゃ高級品でしょうね。

居室も、古くてとても住めないと感じるような雰囲気ではありません。

むしろ、こういうレトロな空間に住んでみたいという人もいるはずです。

大量生産の素材がなかった時代の手作りのディテールは令和の今こそ輝いて見えます。
■外観を知りたければ「表参道ヒルズ 同潤館」へ
なお、「代官山アパート」については単身者用の部屋も展示されています。

一点から全体を一望できるコンパクトさが印象的です。

右手には造り付けのベッドと収納。この上に敷布団を敷いて寝ていたのでしょう。ベッドわきの小窓が素敵。

小さい机と本棚、ローテーブルだけの空間ですが、一人暮らしなら十分でしょう。
というのも、「同潤会アパート」には共同浴場や食堂などが併設されていたため、今で言うシェアハウスの一室のように暮らすことができたと思われるからです。

廊下を眺めていると、玄関わきの壁に縄ばしごを見つけました。

非常時に窓の外にあるフックに引っかけて使えるように備え付けられていたのだそう。

どこかで見た覚えがあると思ったら、「表参道ヒルズ」の一画に再現された「青山アパート」でした。

正式名称は「表参道ヒルズ 同潤館」。

こちらの建物の中にはギャラリーやショップなどが入っていますが、外観と廊下についてはかつての「同潤会アパート」の雰囲気を感じ取ることができます。
「青山アパート」の外観は「代官山アパート」と同じプロトタイプを用いているらしいので、「表参道ヒルズ 同潤館」の外観と階段を「UR まちとくらしのミュージアム」に展示されている室内とを脳内で合成すれば、「代官山アパート」を追体験できることになります。

■1957年竣工「蓮根団地」
「代官山アパート」の隣に展示されているのが「蓮根団地」です。

「代官山アパート」から30年以上も新しく、1957年の竣工。玄関には僕が親しんだ築古マンションに通じる雰囲気が漂います。

室内でもっとも印象的なのがダイニングキッチン。
先ほどの「代官山アパート」では台所とちゃぶ台という組み合わせでしたが、この「蓮根団地」の部屋ではダイニングテーブルが置かれ、壁付けのキッチンと一体となった空間デザインが施されています。30年で日本人のライフスタイルが変化したのが見て取れます。

このサイズ感、僕が子どものころのマンションのキッチンと食卓を彷彿とさせます。チェック模様のテーブルクロスも懐かしい。

キッチン本体を見ると、流し台が石でコンロがむき出しなのには時代を感じますし、

和式トイレや、

木製の浴槽など、前時代的な印象を随所に感じました。
もちろん「前時代的」という形容は1969年竣工のマンションで育った僕の感覚に過ぎません。

うちのマンションとくらべると12年古いだけなのですが、この差を決定的に感じてしまうのは自分が物心ついた時代を基準に生活観を身につけたからなのでしょう。

僕が訪れた日は平日の昼間の回だったので、年配の見学者が多く、「そうそう、こんなのあったね」などと口々に言いあいながら、昔を懐かしく振り返っているようでした。
思えば、僕は木製のお風呂を見て「前時代的」と感じましたが、それとてしょせんは僕個人の感覚。
僕はタイル張りの在来工法の浴室で育ったので抵抗がないのですが、一回り下の世代の人たちにとっては、僕が和式トイレや木製のお風呂に感じるような違和感を、在来の浴室に抱くのかもしれない、とふと思いました。

「代官山アパート」への関心から訪れた「UR まちとくらしのミュージアム」でしたが、知らず知らずのうちに身に着けていた住まいに関する「(独りよがりな)当たり前」を相対化する機会を与えてもらえたようで貴重な経験となりました。
次回も引き続き「UR まちとくらしのミュージアム」の話。前川國男設計の「晴海高層アパート」をご紹介します。


















