(69)【小さな家の小さな本棚②】ミミ・ザイガー『タイニーハウス』シリーズ3冊(+1冊)
今回ご紹介するのは、ミミ・ザイガー(Mimi Zeiger)氏による3冊(と類書を1冊)です。
以前ご紹介した『ニッポンの新しい小屋暮らし』は近年の日本で高まる「小屋ブーム」を概観するような一冊でした。
今回の本はアメリカ人建築ライターの目から選んだ世界各地の「小屋=タイニーハウス(tiny houses)」のコレクションと言える内容です。
まずシリーズ1冊目が『小さな家、可愛い家』(ミミ・ザイガー著、黒崎敏訳、二見書房、2012年)です。
表紙となっているのは「こぶたの家」。
もともと豚小屋(!)だった石造りの小屋をリノベーションした事例で、よく見ると家の右下に豚さん用の出入り口があるのがわかります。
ヨーロッパらしい重厚な雰囲気を漂わせる外観に対し、内装は木材を用いてそっけないくらいシンプルに仕上げられているのが面白いです。
このコントラストは石造りの家の中に木の家を建てる(挿入する)という「ハウス・イン・ハウス」の発想で作られたんだそうです。
そういうリノベーション方法もあるわけか。
裏表紙にも、興味をそそる家々の写真が掲載されています。
このほかにも、アメリカのワシントン州の森の中に建てられたガラス張りの「森に浮かぶ家」や、ノルウェーの海沿いに面し背後には滝が流れるという絶好のロケーションを誇る「デッキハウス」など、一見の価値あるタイニーハウスが紹介されています。
日本からは、縁側を大胆にアレンジした「縁側ハウス」も掲載されています。
個人的にイチオシなのは、原書である英語版”Tiny Houses”(Mimi Zeiger,Rizzoli,2009)の表紙ともなっている「ハンドルの家」(画像をクリックするとAmazonのページに飛びます)。
雪景色のなかにぽっかりと浮かぶように見えるのは、洪水対策として居住空間を2階以上に設けるための工夫です。
豪雪地帯に建てられたとあって、ガラス張りの外装を大型の雨戸で覆うことができるのですが、その仕組みがユニーク。
子どもの身長くらいはあろうかという大きなハンドルをグルグルと回すと雨戸が動くのだそうです。
まさかの手動!これはやってみたい!
シリーズ2作目は『かわいい隠れ家』(ミミ・ザイガー著、黒崎敏訳、二見書房、2012年)です。
表紙の建物は「樹上の隠れ家」と名付けられたロサンゼルスのツリーハウス風の小屋。
室内を斜めに貫くスチール製の柱がツリーハウスの樹木のように小屋を支えるデザインです。
3本の柱は屋根の上まで突き抜けていて、まるで煙突のように見えます。
ゲストハウスとして作られたというだけあり、屋外シャワーや書斎スペースなど、いちいちおしゃれ。
どんな施主がどんな客のために作ったのか、気になりませんか。
ちなみに、原書のタイトルが”Micro Green : Tiny Houses in Nature”(Mimi Zeiger,Rizzoli,2011)と題されているとおり、ラインナップには「自然の中の小屋」が目立ちます(画像をクリックするとAmazonのページに飛びます) 。
家を建てるには不向きな立地は、裏を返すと絶景スポットである可能性も高く、前作以上にワクワクさせられる建物が紹介されていきます。
裏表紙の下に掲載されているのは、眼前に北イタリアのブドウ畑が広がるゴージャスな「キノコの家」。
ほかにも、オーストラリアのジャングルの中に浮かぶ飛行船のような「繭の家」、クリークの上の橋を渡る列車にしか見えない「橋の家」など、家を建てるには不向きな場所に「これでもか!」とばかりに小屋が建てられているさまは「かわいい隠れ家」なんていうマイルドな雰囲気ではなく、金持ちの道楽がたどりつく「イカれた秘密基地」といった風情。
個人的には、南国の果実が生い茂る森に建てられたコスタリカの「作家の籠り屋」が印象的。
小説家の書斎として作られたこの建物のハイライトは、17,000冊の蔵書がひしめく圧巻の本棚。
文系男子悶絶のデザインと言えましょう。
とにかく楽しい本ですが、読み終えてはたと気づきました。
原書の表紙になってる家が日本語版のどこにも載ってない……。
と思ったら、訳者が同じ出版社からシリーズの1冊として出した『夢の棲み家』(黒崎敏、ビーチテラス編著、二見書房、2010年)の10ページですでに紹介されていたのでした。
なるほど、自分が先に出した本で紹介しちゃったから重複を避けるためにラインナップから外したわけね。
ちなみに、件の小屋は「ローリング・ハット」と名付けられていて、名前のとおり鋼鉄の車輪を転がして自由に動かすことが可能だそうです。
先に紹介したミミ・ザイガー氏の著作が好みなら、こちらの『夢の棲み家』も楽しめるでしょう。
しかし、来歴の異なる書籍を一連のシリーズのようにまとめたため、先ほどのラインナップの変更のようなムリがいろいろと出ているのが気になります。
原書の判型は18センチ×18センチの正方形ですが、先行する『夢の棲み家』に合わせてパッケージングした結果、16センチ×22センチのノーマルな判型に変更されてしまっています。
以前ご紹介した『ニッポンの新しい小屋暮らし』もそうですが「タイニー」であることにフォーカスした本は、当然判型にもその思想が反映されているわけで、ここは原書に忠実にデザインしてもらいたかったなと思いますね。
とくに、原著の持つストイックな装丁イメージが「かわいい」パッケージングに作り変えられているのが残念。
個人的には原著のほうが優れた装丁だと思います。
いろいろと苦言を呈しましたが、この邦訳があったからこそこの本と出会えたことは事実であり、なによりまず翻訳出版してくれたことには感謝しなければなりませんが。
ちなみに、原著者のミミ・ザイガー氏の「タイニーハウス」シリーズには2016年に出版された3作目”Tiny Houses in the City”(Mimi Zeiger,Rizzoli,2016)があります。
こちらは翻訳されていませんので原書でどうぞ (画像をクリックするとAmazonのページに飛びます) 。
前作とは対照的に今度は「都市の中の小屋」と題されています。
表紙になっているのは、ロンドンに建てられた「スリム・ハウス」。
その名のとおり、横幅わずか2.3メートルにも満たない薄型タイニーハウスです。
実は、写真に写されているのは建物の裏側。
この隠れ家的な雰囲気に対し、通りに面した建物の正面はオーソドックスな外観で、どこにでもあるイギリスの街並みの一部といった感じ。
こういうギャップは面白いですし、実際に古いビルなどをリノベーションする上でも参考になりそうです。
こんな具合に「都市のなかで「より小さく・より密集し・よりスマートに」暮らすにはどうしたらいいか」がこの書籍のテーマ。
裏表紙の上段・真ん中の写真は日本の埼玉にある住宅です。
こちらを含めて日本からも4軒のタイニーハウスが紹介されており、日本の狭小住宅と海外のタイニーハウスを見比べられるという意味でも興味深い一冊です。
ミミ・ザイガー氏の3冊、いかがでしたか?
寝る前のひととき、手に取って「小屋を愛でる」にはうってつけの本です。