(558)【日刊Sumai再録】内見に立ち会う理由は、ひどい入居者を見てきたからだ
今年も空室が出ました。
幸い、室内はとてもきれいでクリーニングだけですぐに次の募集ができる状況。梅雨明け前にもかかわらず猛烈に暑い7月の募集となりましたが、今回もすべての内見に立ち会いました。
「内見に立ち会うの?そんな大家さん、聞いたことない」とよく言われます。たしかに僕も自分以外には知りません。
さて、なぜそんなことをするのかといえば、祖父の代から半世紀、子どもの頃からこの小さなマンションを見続けてきて、ひどい入居者を何度も目撃してきたからです。思えば、賃貸経営におけるトラブル回避は入居者さんを選ぶことだと僕が考えるようになった原点ともいえる体験です。
というわけで、今回は「日刊Sumai」で書いた連載記事2点を再録します。
「こんな入居者はイヤだ!実録「モンスター入居者」列伝」(2018年3月31日公開)
「保育園に落ちたい!? 内見時の驚きのエピソード」(2018年11月26日公開)
ひとつめについては全文をそのまま掲載していますが、ふたつめについてはテーマから逸れる前半部分を割愛しています。再録にあたって掲載時の写真を削除して差し替えたことをお断りしておきます。
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【こんな入居者はイヤだ!実録「モンスター入居者」列伝】
春といえば賃貸募集の季節ですね。ネットを検索してみると、「マンションの入居を断られた」という経験がある方々が意外にいるようです。理由は、年収や職業、年齢や性別などさまざまでしょう。
以前も書きましたが、契約が済んで入居が決まったとたん、入居者は法律で守られて圧倒的に強い立場になり、ちょっとやそっとのトラブルぐらいでは退去いただくことはできません。ですから、大家の側からすれば、契約後のトラブルがないように慎重に入居者を選びたいものなのです。
今でこそ、うちのマンションは優良な入居者さんたちと良好な関係を築いており、(電気や水道のトラブルはともかくとしても)人間関係面でのトラブルはほぼ起きないようになっています。
しかし、僕が経営を引き継ぐよりも前、家賃が下がる一方だった時代には、いろいろと大変なことがありました。今回は、うちのマンションで実際にあった「モンスター入居者列伝」をお送りしたいと思います。
■ その1.黙ってペットを飼い、意味不明な言い訳をする入居者
うちのマンションはペット禁止です。なのに、廊下を歩いていたら、かわいい子犬を抱っこした女性がドアを開けて部屋に入っていくではありませんか。
当時の僕は管理人でもなんでもありませんでしたが、いちおう管理人に報告してみると……。
「ああ、あの人ねえ。注意したんだけど「この犬、鳴きませんから」って言うばっかりで聞かなくてね」
う~ん、「鳴きませんから」ってそういう問題じゃないですよね(苦笑)
入居者の方とは契約時に「ペット禁止」ということで約束してはいるのですが、ここでいきなり契約書を盾に「ペット禁止ですよ!」と迫ったところで、相手の神経を逆なですることにもなりかねません。かといってやんわりたしなめても無視されるだけ。結局、ほかの入居者からクレームがこなかったので黙認となったようです。
当時は入居者が見つからなくなり家賃も下がり始めた頃だったので、出て行かれても困るという事情があったのだと思います。ルールを破った人が無理を通す……釈然としない気分を感じたのを覚えています。
■ その2.モンスターペアレンツがクレームを入れてくる学生入居者
家賃が下がり始めると、本来はワンルームを探すような学生さんが入居してくることもあります。入ってきたのは某有名私立大学に入学したという18歳の男の子。
お父様はお医者様ということで、金銭面の心配もなし。ところが、これが厄介な入居者でした。
この大学生、性格が悪いわけではないのですが、とにかくなにかあるたびに実家に連絡するのです。すると、パパかママから管理人に厳しいクレームの電話が入るわけです。ところが、それがささいなことばかりなんですよ。
「電気が一切つかなくなった」←それ、ブレーカー落ちただけです。
「今度は玄関がまっくらだ」←いや、電球が切れただけですけど……。
「お風呂に虫がいる!」←まあ、窓を開けて換気すれば虫くらい入ってきますよね(苦笑)。
こんな具合にクレームが続き、当時の管理人はかなり振り回されていたようでした。この名残は、うちのマンションで唯一、風呂場の窓に網戸が設置されていることに見て取れます。クレーム言ったもん勝ち、というのはイヤなものです。ああ、モンスターペアレンツは怖いなあ!
■ その3.夫婦ゲンカの怒声がまる聞こえなカップル入居者
夫婦ゲンカがすごいカップルもいましたね。
いや、夫婦ゲンカをするなとは言いません。長く一緒にいれば、ときには怒ったり泣いたりすることもあるでしょう。
でもね!窓を全開にして大声で怒鳴るのはどうかと思いますよ。
「ねえ!あなた、一度でも私に『ありがとう』って言ったことあるの!?(怒)」
「(狼狽した声で)ありがとう!ありがとう!ありがとう!」
そして、物を投げる音が響き渡ります。こういうケンカが夜中の12時あたりに起こると、さすがに周りもうんざりします。隣の部屋に住んでいた僕も「明日は早く出社しなきゃいけないのになあ」と思いながらベッドの中で夫婦ゲンカの声を聞いていた覚えがあります。
当時、ご近所の方が通報したこともあったらしく、管理人は謝りに行くのに大変だったとか。
思い返すと不思議なのが、このご夫婦、廊下で会ったりするとすごく感じが良いんです。なんというか、保険のCMから抜け出てきたみたいなさわやかカップル。
夫婦ゲンカの翌日に仲良さそうな顔で出勤していくのを見て、当時独身だった僕は、なんともいえない複雑な気持ちを抱いたのを思い出します。
まあ、最後は、離婚して別々に出て行ったんですけどね……。
■ その4.家賃を滞納しまくった上に引っ越し費用を要求してくる入居者
これも怖いですね!
今でこそ、家賃に関する業務は不動産会社にお願いしていますが、遥か昔はすべて祖母が家賃の受け取り(取り立て)をしていました。その頃、なかなか手ごわい入居者がおりまして、ある時期からいくら言っても家賃を払わないようになりました。
結局、たまった家賃は半年分。ガマンの限界を超えた祖母がブチ切れても、せいぜい1か月分払うのがやっと。
親族内で話し合った結果、これはもう出て行っていただくしかなかろうということになりましたが、相手からは驚きの言葉が返ってきます。
「出て行けと言うなら、次の物件に引っ越す費用をくれ!」
盗人猛々しいと憤るところですが、これ以上、傷を広げるのは得策ではないと判断し、泣く泣く理不尽な要求を飲み、引っ越していただいたそうです。
たまった半年分の家賃ですか?もちろん、払われずじまいでした……なんとひどい話でしょうか!
こういうことがあってから、家賃に関する交渉は管理会社にお願いするようになったと聞いています。
いかがだったでしょうか?
こうやって書き出してみると、「このときに自分が大家じゃなくて本当によかった!」と思うエピソードばかりです。というか、もっとひどいエピソードもありますが、大人の事情で書くことができません。
自分は必ず内見に立ち会い、入居希望者の方々とお話しするように心掛けていますが、今思えば、それはこういう厄介な入居者たちの記憶があるからかもしれません。
やはり、良い賃貸マンションは良い入居者さんあってこそ。これからもモンスター入居者を水際で防ぐべく、万全の態勢を取ろうと心に誓うのでありました。
【保育園に落ちたい!? 内見時の驚きのエピソード】
■ 世田谷区で物件を探す理由は「保育園に落ちたい」?
ここからは内見に立ち会って驚いたエピソードを紹介していきましょう。
最近は小さいお子さんをお持ちの方が内見にいらっしゃることも増えており「近くに保育園はありますか?」と尋ねられることもしばしばです。
うちの甥っ子が保育園探しに苦労したこともあり、「このへんは激戦区でなかなか苦労すると思いますよ」とお答えしているのですが、先日、「保育園に落ちて育休を取るために世田谷区で物件を探してるんです」と言われたのです。
ニュースなどでは聞いてはいましたが、保育園に落ちたい人ってほんとにいるんだ……と驚きました。
ルールに違反しているわけではありませんし、人それぞれに事情があるのはわかりますが、堂々と言われると少し不安な気持ちになります。
マンションでトラブルが起きたら、ルールを盾に厳しい要求をされるんじゃないかとか……。心配しすぎかもしれませんが、僕にとって「内見は隣人選び」ですから慎重になるに越したことはないのです。
■ カギが開いているから、と勝手に中に入る内見客にびっくり
賃貸募集のもっとも活気づく4月にはこんなことがありました。
その日は土曜日で天気は快晴。これは内見にもってこいの日だぞとは思っていましたが、想像以上にたくさんの内見客に恵まれました。午前中だけで3組も内見に来て、僕も不動産屋さんも大忙し。つい物件にカギをかけるのを忘れて昼食を食べに出かけてしまったのです。
帰宅後、カギをかけようと部屋に戻ると、なにやら中から人の気配が。
ドアを開けると玄関には見慣れぬスニーカー。おそるおそる中に入ると、男性が窓の外を眺めていました。よく見ると、先日、ひとりで内見に訪れた方でした。
「近くまで来たので、もう一度部屋を見たくて」
とのことですが、今日の昼にはお約束していないはず……。百歩ゆずって、不動産会社を通さずに部屋を再訪するのはよしとしましょう。
でも、オーナーに無断で部屋に入るのはマナー違反だと思います。下手すれば不法侵入と言われてもおかしくありません。
悪気はなさそうでしたので、ふつうに応対してお帰りいただきましたが、こういうことをしてしまう方を入居させるのはちょっと怖いなと感じました。
とはいえ、内見にいらっしゃる方の大半の方はきちんとした人たちなのはまちがいなく、どちらかといえば「うちが選んでいただく」立場なのは、他の物件と変わりありません。
素敵なご縁を願いつつ、内見に立ち会う日々でした。
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こうしてあらためて読み直すと、「なぜ内見に立ち会うのか」と聞いてくる人には逆に「なぜ内見に立ち会わないのか」と問いかけてしまいたくなります。
我が家の場合、同じマンション内に自分も暮らしていますから、賃貸募集は「同じ屋根の下に暮らす」ご近所さんを選ぶことでもあるわけで、とても人任せになんてできません。
「そんなこと言っても、たかだか30分ていどの内見で人の性格なんてわからないでしょ?」とお思いかもしれませんが、「初対面で人の本質を見抜く」みたいな高度な話ではなく、「直感でこの人とはご近所になりたくないなと感じる人を弾く」というていどの話であります。
これが意外にバカにできないもので、かれこれ大家になって10年ほどになりますが、僕自身が立ち会って決めた入居者さんには「この人はハズレだったな」と思う人はひとりもいません。ご近所で距離も近いぶん、入居後もいろいろ相談を受けますが、クレームだと感じたことは一度もありません。困りごとはどれも納得のいくものでできるかぎりきちんと対応しますし、インテリアの相談などされると面白くていろいろ力になりたいと思ってしまいます。
近年、新しい入居者さんが増えるにしたがって、管理業務はどんどんラクになってきました。トラブルが発生したときもみなさん協力的なので連絡が取りやすく、解決までの時間や手間もぐっと少なくなるのです。
まあ、自分の波長に合った人だけを選んで入れてるのだから当然といえば当然ですが、マンション経営において大事なのはやはり「人」だなとしみじみ感じるわけです。今後も手間を惜しまず、内見には立ち会っていこうと思います。