(181)食卓から遠くて寒くて暗くて汚いキッチンを移設しようと思い立つ
世田谷のマンションに入居しているみなさんに週末スモールハウスとして使っていただくために山小屋(の離れ)をリノベーションしてからもうすぐ2年近くが経ちます。
昨年の試用期間を経て、今年からいよいよ本格的な運用を開始しようと思った矢先のコロナ騒動でストップがかかってしまいました。
こればかりはどうにもならないので事態が沈静化するのを待つとして、前からやろうと思ってできなかった課題のひとつに取り組むことにしました。
それが母屋のキッチンの移転です。
母屋でお客さんと食事したのがきっかけ
試用期間であった去年を振り返ると、入居者さんをはじめとするお客さんを母屋でもてなす機会が思っていたよりも多くありました。
離れにはキッチンもありませんし、外食するには市街地まで出かけなければなりません。
山奥ということもあり、夜の外出は面倒に感じることも多いでしょう。
そこで、僕が母屋に滞在しているときは、(お客さんがイヤでなければ)母屋に招いて食事をふるまうようにしたのです。
料理をする頻度が以前より増えた結果、以前から母屋のキッチンに感じていた不満がいよいよ顕在化し、抑えきれなくなってきました。
まずは母屋のキッチンをごらんください。
湿気がこもるので戸棚類は外してありますが、いわゆるふつうの台所です。
広さについては文句ありませんし、キッチン本体の使い勝手が特段悪いというわけではないのですが、キッチンを取り巻く環境にとにかく不満がありました。
【キッチンへの不満①】とにかく食卓から遠い
なんといっても、これがいちばんの不満です。
間取り図で説明すると、こうなります。
ゲストをおもてなしする食卓とキッチンが家の両端に分かれてしまっている状態です。
以前はキッチンに隣接する部屋に食卓を置いたこともあったのですが、どうにも暗くて陰気な雰囲気なのがいけません。
いろいろ試しましたが、日の当たらない山小屋の中では窓が多くもっとも陽光の差し込む部屋に食卓を置くのがベストだと感じました。
おかげで緑が目に入り、明るくて過ごしやすいダイニングスペースができたのですが、料理を持って家の端から端まで歩くのが大変。
オーブンから焼きたてのグラタンなどを取り出して家を横断するときなどは冷や冷やもので、献立を考えるにも自然と自己規制がかかる始末。
「家が広くて大変」というのはひと昔前なら自慢話だったかもしれませんが、現在においては暖房費もかかったり修繕費もかさんだりと、不自由のほうが多いのです。
また、リビングとキッチンが離れているとお客さんの様子がわからないのも困ります。
僕はあまり時間のかかる料理は作りませんが、それでもキッチンにいるあいだ、お客さんを放置することになるのはイヤでした。
【キッチンへの不満②】暗くて寒い
窓があって日の当たる食卓と反対側にあるということは、キッチンは日当たりの悪い場所にあるということになります。
我が家の裏には小川を挟んで竹林が茂っているのですが、キッチンの裏はこの竹林に覆われているおかげで一日中、ほとんど日光が入ることがなく、昼から室内灯が必要な薄暗さ。
夏は涼しいものの、春や秋には足元から寒さが立ち上ってきます。
そろそろ山じまいをしようかという11月や12月に山小屋に行くと、本当は温かい料理でも作りたいと思うのですが、あの寒いキッチンで料理すると思っただけで気持ちが挫けてしまい、そっとキッチンのドアを閉めてポテチでも開けたくなってしまうのです。
【キッチンへの不満③】積年の汚れとネズミのフン
日が当たらないと湿気がたまりやすくなり、キッチンは油断するとすぐに不衛生な状態になってしまいます。
まめに掃除をするしかないのですが、キッチンの広さが足かせになります。
築50年の台所ともなれば積年の汚れもすさまじく、ムダなものもあちこちに置かれ、ちょっとやそっとの掃除ではきれいになりません。
隅から隅までしっかり掃除することを考えると面倒になってしまい、やはりキッチンのドアを閉めてポテチでも開けたくなってしまいます。
「掃除なんて適当にやっとけばいいじゃん」とお思いかもしれませんが、きちんと掃除をしないと出るんですよ、やつらが。
そう、山小屋の天敵「ネズミ」が食べかすや油汚れなどをエサに、そこかしこにフンをするのです。
キッチンや食器棚にあの黒い粒々を見つけてしまったときのゲンナリ感といったら相当なもので、結局、料理をする気も失せてキッチンのドアを閉めてポテチでも開けたくなってしまうのです。
【結論】キッチンと食卓の距離は近いほうがいい
なんやかやと古いキッチンへの不満をあげつらってきましたが、古い日本家屋の間取りが現代のライフスタイルとずれてしまっているのが問題なのです。
かつて料理をする台所はあくまで準備の場であり、お客さんが滞在する応接間とは切り離されておくべき場所でした。
思えば、祖父が住んでいた中野の家も大して広くないけれど、台所から応接間まで遠かったなあと思い出します。
応接間から台所が見えるような家はちゃんとした家ではない――そんな考え方をした時代ではないでしょうか。
一方、現在では、キッチンとダイニングはひと部屋につながっているほうがポピュラーです。
よく「家族と会話しながら料理できるキッチン」的なキャッチをインテリア雑誌などで見かけますが、そこまでとはいかずとも、せめてお客さんの気配を感じながら料理をできる近さがほしいと考えました。
そう考えると、半世紀前にこの山小屋を建てる際、洋間にカウンター付きのキッチンを設け、今で言うところの「キッチンダイニング」にしたいと望んだ祖母は時代を先取りしていたのかもしれません。
これは山小屋を建てる前のプラン図のひとつ。
斜めの「カウンタ」とはしゃれています。
この部屋は現在の間取り図でいうとここ。
残念なことにキッチンダイニングのプランは(おそらくは予算の問題で)中止となってしまったのでした。
この幻のプランに触発されたこともあり、思い切ってキッチンを移転しようと決めました。
次回は「どこにキッチンを移設するか」を具体的に考えます。