(394)フォールディングチェアの名作「ニーチェア80」のこと
前回、海を臨む窓の交換工事の話をしました。
真ん中に大きなフィックス窓を設置したおかげで、眺望がより際立つ窓ができあがりました。
さて、完成前に少々気が早いのですが、この窓辺に置くつもりの折りたたみ椅子「ニーチェア」についてご紹介しようと思います。
なお、この記事の作成にあたっては「ニーチェア」の販売を手がける藤栄のショールームでおこなわれたイベント「NychairX 継承と発展」、及び、その初日に開催された島崎信さんの講演から得た情報を引用・参照していることをお断りしておきます。
■「ニーチェア」とはどんな椅子か
「ニーチェア」といってもごぞんじない方も多いのではないでしょうか。僕自身、今年、インテリアショップで知ったばかりなのですが、その歴史はすでに半世紀余りに及びます。
「ニーチェア」は徳島県のデザイナー・新居猛(にいたけし)さんによって1970年に生み出された折りたたみ椅子(フォールディングチェア)の名作です。
シリーズの顔とも言える椅子が「ニーチェアエックス」と名付けられているとおり、X型の脚を上方向に折りたたむことでコンパクトに収納することができます。
この「ニーチェア」の開発にも関わり、名付け親になって普及にも寄与したのが島崎信さんなのですが、その言葉によれば「新居さんは生涯をかけて折りたたみチェアを追求した」デザイナーでした。
サッと持ち上げるだけで簡単に折りたためる便利さは、どうしても高額になりがちな輸送費を抑えたいという思いから生まれたそう。
さまざまなバリエーションが製造され、日本はもちろん海外でも人気を博したものの、2013年には生産が終了。その理由の詳細はわかりませんが、新居さん自身の工房で家内製造的に造られていたそうですから、2007年に新居さんが亡くなった後も持続的に生産を続けるのは難しかったのかもしれません。
それを引き継いだのが、現在、製造と販売を手がけているのが株式会社藤栄で、若干の仕様変更を除いて、ほぼオリジナルのままで「ニーチェア」を生産しています。再販前の製品についても修理やメンテナンスのサポートを手がけていて、オールドユーザーにとってはありがたい存在です。
■コンパクトなサイズが特徴の「ニーチェア80」
さて、僕が気に入ったのは「ニーチェア80」というタイプ。
現在、「ニーチェア」には3種類のラインナップがあります。
右が先ほど紹介した「ニーチェアエックス」、真ん中がロッキングチェア型の「ニーチェアエックス ロッキング」、左が「ニーチェア80」です。ごらんのとおりコンパクトなサイズが特徴です。
座面の角度も、127°の「ニーチェアエックス」とくらべ、「ニーチェア80」は110°と、やや前傾姿勢になります。「ニーチェアエックス」(35cm)よりも座面も高い(40cm)ので「生活の中で軽い作業もできるもの」(島崎さん談)という位置づけです。リラックス感はやや薄れるものの、読書をしたり編み物したりお茶をしたりなんて場合には、こちらの「ニーチェア80」のほうが向いていると思います。
講演で聞いた話では「この上(の背もたれ)が(たたんだときに)下に入ればいいよね」という島崎さんの言葉をきっかけに新居さんがデザインしたのが「ニーチェア80」だったんだとか。
■「ニーチェア80」のたたみ方
といっても、言葉ではなかなかわかりづらいでしょう。
僕が熱海のリゾートマンションのために購入した「ニーチェア80」を実際にたたんでみましょう。
椅子の背中側に回ります。
背もたれの両サイドを一本ずつ内側に向かって回転させます。
スムースに回転するので特に力は要りません。
背もたれを二本とも下側に収納したら、
上方向に持ち上げながらたたみます。大した力は要りません。
肘かけ同士がピタとくっつくまでおりたたんだら、付属の紐を引っかけて折りたたみ完了。
かなりコンパクトになりました。
たたんだまま自立するのもポイント高し。
ワンアクションでたためる「ニーチェアエックス」とくらべるとやや手間がかかるものの、一度覚えさえすれば簡単なので、生活の中で頻繁に折りたたんでもストレスは感じません。
■個人的な決め手は座り心地とデザイン
個人的には座り心地とデザインが「ニーチェア」を選んだ決め手でした。
折りたたみ椅子というとキャンピングチェアが思い浮かびますが、やはり座り心地はそれなりなもので、長時間座っているとお尻や腰に疲れがたまりがちになります。
その点、「ニーチェア」は座り心地も素晴らしく、折りたためないふつうの椅子と比較しても遜色なく、むしろ優れているといえるほどです。初めて座ってみたときに「このリラックス感は熱海の家にぴったりだ」と直感的に感じました。
こうして正面から眺めると、折りたたみのためのX型の脚や、まっすぐに伸びた肘かけなど、椅子としての姿も美しいです。
島崎さんに言わせると「デザインは自己表現や感性だというのは間違いです。デザインは機能性でありテクノロジーなのです」とのこと。「ニーチェア」の座り心地や美しさも、フォールディングチェアの可能性を突き詰めた結果として生まれた「機能美」なのでしょう。
■気になる価格やカラーバリエーションは?
さて、気になるお値段の話もしておきましょうか。
「ニーチェア80」の現在の販売価格は「57,200円」(「ニーチェアエックス」は「51,700円」)。
発売当時は安価で手に入れやすい「カレーライスのような椅子」をめざしたという 「ニーチェア」ですが、今では高級な椅子の部類に属することは否めません。
しかし、しっかりと造られた機能的で美しい椅子を手に入れることを考えれば、いまだにリーズナブルと言ってもいい価格だと感じます。
ちなみに、僕が所有している「ニーチェア80」は中古品なのですが、それでも4万円しました。これについては安く手に入れることが目的ではなく、現行のカラーラインナップになかったダークブラウンの生地が気に入ったため、あえて状態の良いユーズドを選んだ次第です。
なお、「交換用シート」も「14,300円」で藤栄が販売してくれているので、そのうち気が変わったら張り替えてもいいかな、なんて思っています。
現在選ぶことができる生地カラーは「ブルー・レンガ・ホワイト・キャメル・グレー」の5色で、肘かけの木部のカラーは「ナチュラル」と「ダークブラウン」の2色があります。
「ニーチェアエックス」だと、そのほかにも生地が特徴的な「shikiri」があったり、
木部の自然な質感が魅力の「オイルフィニッシュ」(限定品)が販売されていたりしますから、どれを選ぶかなかなか悩ましいかもしれませんね。
「ニーチェア」の魅力、少しは伝わったでしょうか。藤栄の公式ページのURLを挙げておくので興味が湧いた方は、ぜひのぞいてみてください。
【株式会社 藤栄】ニーチェアエックス / NychairX 公式サイト
実物を見てみたいという方は、「THE SHOP」や「D&Department」などで取り扱いがあるので、お店に足を運んで触れてみてはいかがでしょうか。