(179)人生で初めて軽井沢を訪れて感じたこと
先日、日本一別荘の多い県・長野県に行ってきました。
そう、高級別荘地として名高い軽井沢を生まれて初めて訪問したのでした。
東京のはずれとはいえ別荘を所有&管理する人間としては、以前から気になっていた場所でした。
このブログでもご紹介した吉村順三氏の設計した別荘もこの地にあります。
雑誌「Pen」の軽井沢特集号にも、この「吉村山荘」が取り上げられていました。
この本によれば吉村氏は別荘の設計を「軽井沢だけでも十数件、手がけている」(52ページ)んだそうで。
中でも、「ミナ ペルホネン」の皆川明さんが中村好文氏に改修を依頼した別荘(36,37ページ)は、吉村氏らしいシンプルな建物の中に可愛らしいファブリックがちりばめられ、とても素敵な雰囲気にリノベーションされています。
そのほかクリエイターの別荘がいくつか紹介されており、パラパラとめくっていても楽しい特集でした。
さて、こんな素敵な別荘がある軽井沢とは、一体どんな土地かと期待して訪れた次第ですが、旧軽井沢周辺の別荘地をクルマでドライブすると、期待を裏切らない瀟洒な雰囲気でした。
適度に整備された森の中に品の良い別荘が次から次へと姿を現し、車窓から眺めていても飽きません。
「こんなところで過ごしたらどんな心地がするのだろう」とは思うものの、ハイグレードな貸し別荘を借りる予算的な余裕はとてもありませんので、中心から少し外れたリーズナブルなところに宿泊しました。
家族6人(+子ども)で宿泊し、一泊3万円也。
予約した妹曰く「8月の土日の軽井沢でひとり一泊5千円はけっこう安いと思うよ」とのことでした。
窓からの眺めです。
高原の別荘の良いところは、我が家のような山間の立地とくらべて、平坦で景色に広がりがあるところ。
管理会社が管理している別荘地の一角にあるので、定期的に草刈りもされているのでしょう。
こざっぱりとして、気持ちよい風景が広がります。
これぞ別荘地といった感じ。
以前、見学に行った山梨の別荘地では「草刈り・雪かき・蜂の巣駆除」で年間の管理費が10万円強だと聞きましたが、お金を払って快適な環境を買うと考えれば決して高くないのかもしれません。
標高千メートルを超えるとあって、涼しさも格別。
天気予報によると、この日の世田谷は最低気温27℃の熱帯夜だったようですが、軽井沢はなんと20℃を切らんという気温。
僕らが泊まった建物にはクーラーが設置されていませんでしたが、それもうなずけます。
ふだん山小屋で週末を過ごしている僕からしても、涼しさがワンランクアップした印象でした。
うっかり窓を開けて寝たりすれば、風邪を引きかねない涼しさです。
ただし、湿度はかなり高めで、窓を開けて涼んでいるとソファが少ししっとりした感じがしました。
貸し別荘で一晩過ごすなら問題ありませんが、別荘を所有するとなると布団や洗濯物の管理に気を使わないとすぐカビ臭くなってしまいそう。
軽井沢の別荘族のあいだでもルームドライヤーやカライエが必須アイテムなのはまちがいありません。
ちなみに、僕ら夫婦は二階で寝たのですが、温かい空気が上に昇ってくるためか、窓を開けてもやや暑さを感じました。
扇風機を回して眠ることはできましたが、快適というほどではなかったかな。
別荘の間取りを眺めていると、よくロフトにベッドスペースを設けている物件が散見され、真夏は寝苦しさを感じるのではないかと思っていたのですが、想像どおりでした。
反面、冬は二階のほうが暖かいのでしょうが。
さて、「涼しい高原の別荘地」というだけなら、似たような土地は日本中に山ほどあります。
軽井沢を軽井沢たらんとしているのは、まるで東京かと思わせるような充実した商業空間の存在ではないでしょうか。
旧軽井沢の軽井沢銀座商店街は鎌倉の小町通りを思わせるにぎやかな商店街。
周辺には表参道や代官山で見かけるような雑貨や洋服を扱うショップ、カフェやレストランが軒をつらねます。
駅前には広大な敷地を誇るアウトレット「プリンスショッピングプラザ」があり有名ブランドがずらりとならびます。
自然豊かで冷涼な環境から目と鼻の先に、東京と変わらぬ商業空間が存在する――軽井沢が軽井沢たるゆえんです。
中軽井沢まで足を延ばせば、星野リゾートが手がける「ハルニレテラス」もあります。
こちらは、軽井沢らしい森深いロケーションにおしゃれなショップを巧みに配しているのが印象に残りました。
緑の中を歩きながら、洋服や雑貨や食品の店を冷かして回るだけで、優雅な気分が味わえること請け合いです。
ここだけの話、売っているもの自体は都心と大差ないのです。
でも、同じ商品を眺めても、環境次第でいっそう物欲を刺激されるのが、健全な消費者というものです。
「観光地に来ると財布の紐がゆるむ」という普遍的な法則にも背中を押され、ちょっと高額な雑貨や食品などをついつい購入してしまうのが“軽井沢マジック”でしょうか。
くりかえしになりますが、森の中から手を伸ばせば都会文化に手が届く点こそ、数ある別荘地の中で軽井沢を別格な場所にしているのだと感じました。
その名声ゆえ、土日ともなると、街も森も人でごった返します。
立ち寄った白糸の滝は風光明媚なところでしたが、
一歩下がれば、観光客で黒山の人だかり。
とくに駐車場は行きかう人とクルマでカオスな状態で、とてもじゃないが僕は運転したくないと思いました。
人の数が多いといまひとつ気分も落ち着かず、せっかく自然が多いところに来てもリラックスして水と緑を眺めることができませんでした。
ところが、旧軽井沢で立ち寄ったお店の方からは驚きの話が聞けました。
「今日はお客さんが(例年の)20%くらい。8月の土日なら、インターからここ(旧軽井沢)まで渋滞で4時間かかるなんてこともありますよ」
客商売はコロナの影響をもろに受けているので多少話を盛っている可能性はありますが、例年の半分の人手だとしても、ふだんはこの倍の人間がいることになります。
ということは、今夏の軽井沢は空いてるの?これで!?
軽井沢、良い場所だけど、人が多すぎやしませんか。
うちの山小屋がある東京西部のはずれも夏には行楽客でにぎわいますが、ちょっとレベルがちがいますね。
再訪の機会があるならば、次回はオフシーズンの平日に訪れてみたいものです。
もうひとつ気になったのが、やはり距離。
世田谷から途中のサービスエリアでの休憩も挟んで軽井沢に到着するまで4時間近くかかりました。
今回は大の運転好きの義弟がクルマを出してくれたのでラクちんでしたが、自分で運転する気にはならない遠さでした。
軽井沢の別荘族は新幹線を利用する方も多いそうですが、納得です。
遠いということは、交通費がかかるということ。
クルマにせよ新幹線にせよ、往復で軽く1万は吹っ飛ぶとなると、お財布への負担も大きいです。
これじゃあ、たとえ別荘を所有していてもマメに足を運ぶことはできないかも。
初軽井沢の印象をざっくりまとめると、
ってな感じでしょうか。
こういう個人的な感想を書き出してみると、自分が別荘に何を求めているのかがあぶり出されるのが面白いですね。
「世田谷からクルマで1時間強でアクセスでき、自然豊かで人も少なく、涼しい」のが、山小屋の良いところなのだなとあらためて気づくことができました。
軽井沢のような充実した商業施設はありませんが、それは都会でも享受できるので、ないものねだりをするつもりはありません。
東京西部の山間部にだって、感じのよいお店は点在しています。
青梅のベーカリー「noco」では気持ちよくリノベーションされた店内で軽井沢の名店に負けないパンを味わえますし、
檜原村にはある「ヒノハラテラス」では、優雅なテラス席で別荘地のような食事がいただけます。
あきる野市にある「真木テキスタイルスタジオ」では、天然の繊維素材を用いた上質な服を購入することができますし、
イベント時に開店する「竹林カフェ」では、竹林を愛でながら美味しい料理やコーヒーを楽しめます。
そういえば、「瀬音の湯」を訪れた際に、母が「軽井沢みたい」と感心していたこともありました。
知名度では太刀打ちできませんが、東京の山里も捨てたもんじゃないっすよ。