(519)【日刊Sumai再録】築古のトイレを間取りを変えずにリフォーム(前編)
引き続き、世田谷のマンションの一室について書いていきます。部屋の全体像については以下の記事をどうぞ。
今回お話するのはトイレのリフォームのこと。
うちのマンションのトイレはもともとかなり狭いので、いつもは壁を取り壊して中を広く造り直しています。
ブロック壁を取り払ってドアを前方に付け替えるので、それなりに大がかりな工事です。
しかし。
この部屋ではもともとの間取りをそのままでトイレをリニューアルしようと試みました。その一部始終を過去の「日刊Sumai」の再録記事「新しくしたのに狭くなる!? トイレリノベの注意点」(2019年3月12日公開)でごらんください。
なお、再録にあたって一部写真の差し替えをおこない、文章のおかしいところを少しだけ訂正したことをお断りしておきます。また、5年前の記事ですので、文中の商品については現在は取り扱いがない可能性があることをご承知おきください。
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【新しくしたのに狭くなる!? トイレリノベの注意点】
築50年ともなれば、マンションのさまざまな設備が「替え時」を迎えます。
たとえば、トイレ。
今回は、うちのマンションで旧式のトイレを新しく交換しようとした際に「コンパクトに収まる便器が見つからずに困った」という体験談をお話しします。
■トイレを新しくする理由は「節水」と「清潔感」
うちのマンションでまだリノベーションが行われていない部屋では、半世紀前に設置された「フラッシュバルブ式」のトイレが現役で稼働中です。
古いトイレというと、本体のうしろに水を貯める「タンク式」を思い浮かべる方も多いかもしれませんが、必ずしもそうではありません。
「フラッシュバルブ式」のトイレは、タンクに水を貯めず水道管に直結させて流すタイプです。流す際にはレバーを下に引きます。すると、高い水圧を利用して「ジャーッ」と一気に水が流れる仕組みです。
そのため、一度に使う水の量も多め。最小限の水で流す節水タイプがポピュラーになった現在では、水道代がかかる点は気になります。便器を交換すれば、この点は確実に改善できるはずです。
また、水回りの設備が古いままだと、どうしても内見時の印象が悪くなりがちです。部屋自体がきれいになると、古い便器は余計にみすぼらしく見えてしまい、清潔感のない印象を与えてしまいます。
そんなわけで、部屋をリノベーションするタイミングでトイレ本体を新しく交換することを決意しました。
■ポイントは既存のトイレの「狭さ」
今でこそ近所で一、二を争う築古物件と化したわがマンションですが、50年前に建てられた当時は、近所でも話題のモダンなマンションだったそうです。
でも、当時はトイレやお風呂などをゆったり確保するという考えのない時代。水回りはコンパクトにまとめられ、必要最低限の広さしかありません。
特に、トイレはけっこうな狭さです。
トイレの「狭い/広い」を左右するのは、便座の先から壁までの距離。これが広ければ広いほど、足回りがゆったりとして使いやすくなるのですが、うちのマンションのトイレを測ってみると……、
便座から壁まで、およそ28センチしかありません。現在の常識では40センチは必要と言われていますから、かなりの狭さです。今よりも体格的に小柄な人が多かった昭和サイズだとしても最小といえるでしょう。
ただでさえ狭い部屋に中途半端なリフォームが加えられ、さらに狭くなってしまった部屋が今回ご紹介するケースです。
ご覧の通り、先代の大家が管理していた頃、ムリやり温水洗浄便座が追加されました。
便座が便器からはみ出て、前に突き出してしまっています。
その結果、便座から壁までの距離はさらに短くなり、26センチに。これによって、ギリギリセーフに収まっていたミニマムトイレがギリギリアウトなサイズになってしまっていました。
以前もこの連載で書きましたが、僕自身、このタイプの部屋に住んでいたことがあります。便座から腰を上げるたびに、顔面を壁にこすりそうになり、油断すると顔をぶつけることもあり、うんざりしていました。
「便器本体を変えるのはお金もかかるし、とりあえず不動産業者が温水洗浄便座を入れろって言うから便座だけ変えました」という、その場しのぎの策が逆効果になってしまったといえます。
■便器を交換してもトイレが広くなるとは限らない?
最初にお断りしておくと、もっともスマートな解決案は、部屋の間取りそのものを変えてトイレの空間自体を広くしてしまうことです。うちのマンションでは、これまでこの方法でトイレを改善してきました。
しかし、建具を新調し、ブロック壁の解体や新たな壁の造作をおこなうと、どうしても費用がかさんでしまいます。苦肉の策として、昭和サイズの狭いトイレの間取りは変更せず、本体(と内装)のみを工事することで問題を解決できないかと考えたのです。
ところが、これが簡単ではありませんでした。
まず、いつもお世話になっている工事業者さんに現場を見てもらったのですが、反応はかんばしくありません。
「もともと入っているトイレが小さいから難しいかもしれないですね」
のっけから予想外の返事でした。「トイレ本体を新しく交換すれば、省スペースになって広くなる」という(根拠のない)思い込みがあっただけにショックでした。
試しに、いつもうちのマンションのリノベーションで導入しているタンク式のトイレを、今回のトイレに設置したと仮定すると……、
便座から壁までの距離は、なんと「たったの18センチ」。現在の使いにくいトイレと比べても8センチも狭くなってしまいます。これでは使えません。
業者さんのお話では「フラッシュバルブ式」のトイレはタンクが付属しない分、もともと省スペースなんだそうです。だから、トイレを新しくしたとしても、簡単に省スペース化を実現できるとは限らないのでした。早くも暗雲が立ち込めてきました。
■暖房便座のみならリーズナブル!だけど…
となると、候補に挙がるのはタンクレストイレでしょう。
旧式の「フラッシュバルブ式」トイレと同様、タンクのスペースを取らないので省スペース化が期待できます。しかし、タンクレスといえば、とにかく高額な印象があります。価格でいうと、タンク式のトイレの倍くらいはかかるイメージです。あまり高額になると、間取りを変えずに節約した意味がなくなってしまうので悩ましいところ。
思えば、ここですぐに業者さんに相談すべきでしたが、ひとりでうんうん悩んでしまいました。目をつけたのが、洗浄機能の付属しない暖房便座のみのタンクレストイレ。実は、これ、わりと珍しいです。
タンクレストイレは洗浄機能が付属するのが標準的。「ここから洗浄機能をなくせば、安くなるんじゃないの?」ということで探してみると、「アラウーノV」というシリーズに暖房便座のみのタイプがあることがわかったのです。
これなら本体の価格はおよそ9万円。いつもうちのマンションに入れているタンク式のトイレの価格がおよそ6万~7万円ですから、プラス2万~3万円。この程度の差額なら出せそうです。
我ながらグッドアイデアと思い、業者さんに相談しましたが、こんな返事が。
「このタイプ、奥行に72センチは必要なので、今までよりも狭くなってしまいます」
え!?
うちのトイレの奥行は96センチ。ここから本体設置スペースを引くと、足まわりの広さは24センチ。
えー、リノベ前よりも狭くなっちゃうの……。タンクレストイレなら、今よりコンパクトになると思い込んでいただけに、またもショック。
結局、素人の浅知恵だったわけです。途方に暮れる僕を救ってくれたのは、業者さんからの新しい提案でした。次回は、なんとか間取りそのままでトイレをリノベーションするまでをリポートします。
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いかがでしたか。最終的にどんなトイレを選ぶことになったかは次回の後編に譲るとして、空間に制約がある場合のトイレのリフォームはなかなか難しいなと実感いただけたのではないでしょうか。
思えば、山小屋の離れのトイレを決めた際も、限られた空間を活用するためにタンクレストイレを採用するまでいろいろ考えました。
ご興味ある方はぜひこちらもご一読ください。
次回は後編をお届けします。