(773)もはやリフォームで家賃アップという戦略は割に合わない?

お金のこと

先日、親戚が所有する物件の募集で、最近の賃貸事情が大きく変化していることを実感しました。

簡単にまとめると、世田谷区にある築50年越えの50平米のマンションの一室の家賃が、一昨年は13万円だったのが、昨年は15万円になり、今年は18万円にまで値上がりしたのです。

特に衝撃を受けたのが「この部屋が最低限の原状回復しかおこなっていないのに劇的に家賃が上昇した」という事実でした。こちらの部屋が最後に設備の更新などをおこなったのはかれこれ20年近くも前ですから、室内はお世辞にもきれいとは言えない状態。それなのに、およそ一か月ほどで2年前の約1.4倍の家賃で借り手を見つけることができたのです。

これは十年以上マンション大家をやってきた自分にとって、経験則を裏切るような出来事でした。

マンションの外観

思えば、僕が大家業を引き継いだ2014年の頃は、都内でも賃貸マンションは余っていて借り手が圧倒的に強い時代でした。事実、うちのマンションでも家賃を下げてもなかなか入居者が決まらないという事態が続いていたのです。

数ある賃貸マンションの中から選ばれる部屋を作らねばならない――そんな思いから「しっかりと室内をリフォームして、それに見合ったお家賃をいただく」という方向性を打ち出すことにしました。

ひとつ例を挙げましょう。

題名のとおり、こちらの部屋はリフォームによって9万円だった家賃が12万円にアップしました。

では、リフォーム前の部屋はどうだったかというと、こちらの記事でまとめました。

このタイトルにも僕の考え方が明確に表れています。だましだまし「9万円」の家賃を維持していくよりも、室内をしっかりと刷新して「12万円」の家賃をめざすほうが長い目で見れば合理的だと考えたのです。

リフォーム後の室内

僕の計算はこうです。

この部屋のリフォームにかかった費用はおよそ「320万円」でした。

これだけの費用をかけても、9年間、家賃を下げずに借り続けてもらえれば、アップした分の差額の3万円だけで工事費が取り戻せる計算になります。さらに、10年目以降は、その差額の3万円はそのままプラスアルファの利益になるのですから、長く続けるならリフォームする価値は十分にあると考えたのでした。

リフォーム前の室内
※不動産屋さんが撮影した写真です

しかし、この計算の前提には、僕が大家業を引き継いだ頃の認識=「リフォームしない部屋の家賃は「9万円」で、そのままでは絶対に上がらない(というか、むしろさらに下がる)」という想定がありました。

リフォーム前の室内
※不動産屋さんが撮影した写真です

正直、こうしてリフォーム前の室内を眺めても、こんな部屋を「9万円」よりも高い金額で借りる人がいるとは思えないのですが、冒頭でご紹介した親戚の物件をはじめとして、ここ1、2年の急激な家賃上昇を考慮すると「ひょっとしたら、借り手が見つかってしまうかも」と思えてしまうのです。

そうなると、僕がこの十余年の間、選び続けてきた「家賃維持で再募集するよりリノベーションで家賃UPを選ぶ」という方法論が、徐々に時代とズレてきてしまったのではないかと感じられます。

リフォーム前の室内
※不動産屋さんが撮影した写真です

ここからはあくまでひとつの思考実験に過ぎませんが、計算してみましょう。

たとえば、この部屋をリフォームなしで「10万5千円」(従来の家賃に「+1万5千円」)で貸すことができたらどうでしょうか?

リフォームでアップしたはずの差額「3万円」は半額の「1万5千円」になってしまい、その差額で工事費用の「320万円」が取り戻せるのは約18年後のことになってしまいます。この計算だとリフォームの旨味がだいぶ減った印象を受けますね。

リフォーム後の室内

いやいや、家賃が全体的に上昇するならば、リフォームした場合の「12万円」の家賃だってもっと上昇するはずだ、と考えることはできます。

もし、このリフォームした部屋が「+1万5千円」の「13万5千円」で貸すことができるのならば、リフォーム前との差額は当初の想定と変わらない「3万円」になります。

ですが、いくらリフォーム済みといっても「13万5千円」という想定にはやや無理があるように見えます。というのも、あるていどの金額を超えてくると家賃の上昇は鈍化するだろうと思われるからです。

うちのマンションでもっとも高額なリフォームをおこなった部屋があるのですが、

この部屋は、他の部屋とくらべて約100万円ほど余分に費用をかけ、サンルームやグレードの高いキッチンなどを設置してみたのですが、家賃は他の部屋と同様の「12万円」が限界でした。

個人的にはこの額を大きく超えて家賃が上昇するのは難しいという印象で、割りに合わない投資になってしまうと感じてきました。

リフォーム後の室内

もちろん、昨今の時世を踏まえればベースとなる家賃そのものが上昇するので、今ならばこの「12万円」も上振れするでしょうが、「9万円」の家賃が上昇する幅とくらべると、どうしても少額になるのではないでしょうか。

ちなみに、最近、某賃貸サイトで「AIによる予測賃料」なるものが算出できるようなので調べてみたところ、この部屋の予測賃料は「12万4千円」でした。そうか、4千円しか上がらないんだ……。

リフォーム中の室内

こうなってくると、いよいよフルリフォームのメリットが小さく感じられてきてしまいます。放っておいても家賃が上がるかもしれない部屋を、わざわざ知恵とお金を投じてまるごと工事したところで思ったよりも家賃が伸びない、ということになってしまうからです。

ビフォーアフター比較画像

個人的にはリフォームが好きですし、生まれ変わった部屋を気に入ってくれる入居者さんが集まってくれて、インテリアなどの好みを共有できることも楽しいですから、自分のやりがいも含めれば工事が無意味だとは思いません。

しかし、一方で、大家という仕事は冷静にそろばんを弾いて考えねばならないわけで、経済合理性に欠ける事業をおこなうべきか否かについては慎重に検討する必要があります。

実はうちのマンションにはまだ工事をおこなっていない古い部屋があるのですが、もしここで空室になった場合、これまでと同様に工事するべきか、それとも手直していどでお茶を濁すのかはなかなか悩ましい問題になりそうです。

アサクラ

大家業。世田谷のマンションと東京西部の山奥にある小屋を管理&経営しています。最近は熱海に購入したマンションの一室をDIYで修繕中。ESSE online(エ...

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